南三陸町の森・里・海・ひとを活かしたまちづくり vol.1

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南三陸町の森・里・海・ひとを活かしたまちづくり vol.1

震災の経験から地域資源と人のつながりの大切さを身を以て再認識した南三陸町では、自然の流れのように官民一体となった「森・里・海・ひとを活かしたまちづくり」がはじまっています。

南三陸町の官民一体での取組みには、国内外から熱い視線が注がれています

南三陸町は、震災復興計画の基本理念として、「『自然・人・なりわいが紡ぐ安らぎと賑わいのあるまち』への創造的復興」を、目指す3つの目標として、「安心して暮らし続けられるまちづくり」、「自然と共生するまちづくり」、「なりわいと賑わいのまちづくり」を掲げています。

これらの目標は、震災で電気、水道、道路というライフラインが寸断された経験を踏まえて生まれたものですが、 地球温暖化、エネルギー、天然資源枯渇の問題など環境に関わる問題が地球全体の課題となっている今、南三陸町の官民一体での取組みには、国内外から熱い視線が注がれています。

実際にどう実践されようとしているのか、4回のシリーズで角度を変えてご紹介していきます。

豊かな自然・人・社会を未来へつなぐシンポジウム 『南三陸から世界へ。~持続可能な地域づくりへの挑戦~』の開催

4月9日・10日と桜の花が咲き乱れる南三陸町で、「豊かな自然・人・社会を未来へつなぐシンポジウム 『南三陸から世界へ。~持続可能な地域づくりへの挑戦~』」と視察ツアーが開催されました。

シンポジウムには、町内外、総勢150人程が集い、専門家、実践者、地元、南三陸町から太平洋ミクロネシアのパラオ共和国まで持続可能な地域づくりへ挑む方々をゲストとして迎え、思いを交わしました。

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自然や共同体が個と結びつくあたらしい社会構造

トークリレー、『人と自然の共生から生まれる循環』とトークセッション『南三陸町から未来につなぐ』の二部で構成された一日目のシンポジウムは、コメンテーターの東北大学名誉教授石田秀輝氏の哲学的とも言える熱のこもった言葉から始まりました。

東北大学名誉教授石田秀輝氏
「現代の若者が欲している物は、もはや物質ではありません。物よりも心の豊かさの方が大切だという人がどんどん増えています。週末、自然の中で暮らし、アウトドアがおしゃれだという。家庭菜園やガーデニングがブームになり、自分でものをつくるDIYという概念も出て来ました。物物交換もする。物質的な豊かさが飽和した今、ローカルが持つ独自の個性や風土的、文化的な多様性に人々の関心が向かう時代がまさに来ています。人は一万年前からつい最近まで、圧倒的に強い自然、それと強固につながった共同体の上に個がある”アニミズム的社会構造”をベースに日々の暮らしが成り立っていましたが、近代化の中で快適性や利便性を追求した結果、個は自然や共同体から切り離され、金銭に頼る生き方が主流になってしまいました。今、必要なのは、個を共同体や自然とつなぎ合わせることであり、そのために私たちは、自然と強固に結びつく新しい社会構造、価値観をつくっていかなければならないのではないか、それにどう向き合わなければいけないのか、何をしていけばよいのか、みんなで意見を出して、考えたい」

南三陸町の森・里・海・ひとを活かしたまちづくり vol.1

私たちが次世代に伝えていかなければいけないこと

第1部トークリレー、「人と自然の共生から生まれる循環」では国、町、民間企業、それぞれの視点からのお話がありました。

口火をきったのは、環境省大臣官房審議官・中井 徳太郎氏の「『つなげよう、支えよう森里川海』プロジェクト 」と題したお話からです。

「森、里、海の連環/循環の中に私たちの暮らしがある。まさに、社会/時代の変換期を迎える今、私たちは次世代に何を伝えていかなければいけないのか。」という問いかけがありました。

「今、世界が直面している地球温暖化、生物多様性減少など環境破壊の問題、それと経済停滞、輸入、輸出など経済の問題、そして、人口減少、少子高齢化、コミュニティの崩壊など社会の問題、それらの問題を解決するためには、分断された状態でそれぞれに問題を抱えるのではなく、つながることで問題は解決していくのではないか」そのための環境省の取組み、国の後押しがあることなどをご説明いただき、そして、そのような状況の中、私たちの身近なところでできることは、自然を知り、活用し、楽しみながら地域を愛することだというヒントもいただきました。

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震災の経験を経て生まれ変わる南三陸町

佐藤仁南三陸町長の「森・里・海・ひとを活かしたまちづくり-被災自治体の挑戦-」と題したお話は、分水嶺に囲まれ、町内に降り注ぐ雨を志津川湾に注ぎ込むという特徴ある地形を持つ南三陸町が、その特質を活かせるかどうかは、町民の意識次第だということ。

震災と津波で壊滅的な被害を受けた町が、自然を知り、活用して、「森・里・海・ひと いのちがめぐるまち 南三陸」、環境にやさしく災害に強い「バイオマス産業都市」として生まれ変わろうとする町としての決意表明がありました。

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持続可能な生命基盤システムを南三陸町から世界に発信

南三陸町で再生可能エネルギー循環をサポートする事業を初めているアミタグループ代表・熊野 英介氏から、「生命基盤を持続可能にするBIOシステム」のお話がありました。アミタグループは、「自然資本および人間関係資本の工場に資する事業」を定款にあげています。それが、事業の基本だということです。それを理念だけでなく、実践されるモデルシステムを南三陸町でつくり、世界に発信していこうという思いがあります。

ゴミとして処理していたものが有益な肥料になり、ガスエネルギーになり、電気に変わる。放置していたものが、熱源になる。事業として稼動するために雇用も生まれる。それらを可能にするためには、住民一人一人の協力、意識変革が必要になります。

このシステム、サイクルが順調に稼動すれば、世界に誇れるモデルケースになるでしょう。昨年12月には、パラオ共和国コロール州から知事が視察に訪問されています。

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「パラオの現状と次世代に向けた取り組み」パラオ共和国コロール州議会議長・Eyos Rudimch氏からの報告

パラオ共和国は、南太平洋ミクロネシアに位置する小さな国です。面積は458㎢、日本でいうと福島県田村市とほぼ同面積です。パラオでは、急速に観光産業が成長したため、既存のインフラや環境が損なわれて、ゴミ処理問題は重要な課題になっています。コロール州でも、肥料やプラスチック油化にする他、海外への輸出やリサイクルしたガラスでお土産グッズをつくってもいるそうです。

何事も”言うは易し、行うは難し”。日本でも、パラオでも、現代に生きる私たちの悩みは国境を越えて共通するものがあります。やってみなければ、わからない。共に取組み、進んで行く仲間です。

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住民ひとりひとりが動き出す

第二部では、町内で実際に取組みを進めて来た代表の方々から内容紹介の後、会場に集って来ている方々も含め、意見交換がかわされました。

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届きにくい町民の声をまとめて町に届けている神社の禰宜であり主婦である工藤まゆみさん、個人山主が多く手が入りにくい山林を資源として活用する方法を考えている若い林業家である佐藤太一さん、成功と失敗を繰り返しながらも新しい液肥使いにチャレンジしている農業家の阿部博之さん、競争が激しい漁業者をとりまとめて、より質の良い牡蠣の南三陸ブランドづくりに取組む漁業家の後藤清広さん。立場の違う4名の方の町民としての草の根ともいえる挑戦のお話は、一人一人にやれることがあるのだということを思い出させてくれるものでした。

「社会を変えていくのに、壁になるものは何か」という問いに対して、会場では、「当事者意識」が一番多かった答えでしたが、5名の登壇者でだれもそれを出した人がいなかったのは印象的でした。

「すでに、誰もが当事者になってできることはやっている」というのが理由としてあがっていましたが、それは、誰かがやってくれるのを待つ余裕は無いということなのでしょう。特に震災後、多くのものを失ってしまった後は、当事者としての危機感は誰もが持っていたということなのかもしれません。そして、自らが動き社会を変えてきたことも、それを一つの楽しみであることを発見したのも実際に起って来たことではないでしょうか。

シンポジウムの場のように、それぞれの取組みを一同に介して聞く機会もお互いを刺激し、新しいものを生み出すきっかけになることでしょう。現地視察ツアーでは、実際にどういった活動がなされているのか、実際の施設を見学し、現場に立つ方々のお話を聞くことで、さらに理解を深めることができました。

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