南三陸町の地域おこし協力隊の委嘱状交付式が7月1日、町役場で行われ、新たに県内外から20~40代の男女4名が着任しました。そのうち、町内初の夫婦そろって地域おこし協力隊になったのが太田和慶、裕さん夫妻です。今回は農業で地域活性化を目指す夫の太田和慶さんをインタビューを交えながらご紹介します。
南三陸町で循環型の農業に挑戦したい
太田和慶さんは山形県出身の33歳。大学卒業後、長野県や岩手県で主に有機農業に従事してきました。自身の長年の夢だった循環型農業を実現するため、東北沿岸沿いで農地を探していたところ、南三陸町にたどり着いたそうです。これまで培った経験や知識でこの町の農業を盛り上げたい!自分のやりたい農業を実現したい!と地域おこし協力隊に。
今後はバイオマス事業に携わる有限会社山藤運輸(志津川)に所属し、南三陸BIOで製造される液肥や、ホヤ殻など未利用資源を堆肥化し、それらを活用した農作物の生産、ブランド化に尽力します。
ミッションは未利用資源や液肥を活用して地域農業を活性化
生ごみから液肥とバイオガスを製造し、循環型のまちづくりを進める南三陸で、液肥の散布事業を担っているのが太田さんが所属する山藤運輸です。液肥の利用促進や遊休農地や耕作放棄地活用の課題を抱え、農業の担い手を探しているところに、太田さんが手をあげ、今回の地域おこし協力隊の採用につながりました。太田さんに与えられたミッションは地域資源を活用した地域農業の活性化事業。液肥や地域の未利用資源を活用した農作物のブランド化や、地域就農者の受け入れのための環境整備などが主な活動となります。こういった活動を通して、地域農業を活性化し、遊休農地や耕作放棄地の解消を目指します。
農業に熱い思いを持つ太田さんに、移住のきっかけや任期中に叶えたいことなどを伺いました。
太田和慶さんにインタビュー
―移住しようと思ったきっかけは?
「自分がチャレンジしたかった農業がここならできると確信したからです。20歳の頃から循環型農業をやりたいと思っていましたが、それを叶える環境選びにすごく苦労していました。大学卒業後、長野県の農業法人に就職したものの、途中で挫折、農業から離れている時期もありました。体調を崩したときに妻から「好きなことやったら?」と言われ、再び農業をやってみようと決心。岩手県一関市の農業法人で科学的・論理的な有機栽培技術を用いた農業を勉強しました。独立しようと農地を探しているときに、南三陸での循環型農業に出会ったんです。
町民が協力しあって液肥が生まれ、それを畑や田んぼに散布して作物を作っているのを見て、私自身が生涯かけてやりたかった取り組みがこの町にはある、自分がここに来たら、思い描いていた農業のさらに先を目指せるんじゃないかとワクワクしました。
ただ、新しい土地で農業をするには一から農地を探したり、安定した収穫を得るまでには時間がかかったりとけっこうハードルも高いんですよね。だから、山藤運輸の佐藤克哉社長に声かけてもらって、今回の地域おこし協力隊につながったことは本当に嬉しく思ってます。
また、農家の阿部博之さんとの出会いも大きかったです。南三陸町移住定住支援センターを通して紹介してもらったのですが、農業計画を見せたら、私がやりたい農業をくみ取ってくれて、親身に話を聞いてくれました。具体的にアドバイスもいただきながら、今回の地域おこし協力隊につながったんです。阿部さんと話しているとなんだか亡くなった父を思い出すんですよね。阿部さんだけではなく、地域のひとたちが自分のお父さん、お母さんみたいに感じました。こんな環境で農業やりたいなと素直に思いましたね。」
―力を入れて取り組みたいことは?
「液肥を使って作った作物、めぐりんブランドの確立ですね。『めぐりん米』は町のブランド米として商標登録もされていますが、米だけではなく、果樹や野菜も液肥を活用して作っていきたいです。この町のビジョンでもある「いのちめぐるまち」というキーワードにあるように、これまで私が培ってきた技術や知恵をめぐらせて、ブランド化につなげたいです。ブランドを定着させるまでには時間も労力も必要ですが、土台が整って“作れば売れる”という流れができれば、農業をする人も増えると思うので、そのベース作りに力を入れたいです。」
―南三陸町で叶えたいことは?
「農業の学校をつくることです。これまで、土や植物について徹底して勉強してきました。肌感覚ではなく、確実にいい品質のものを科学的な根拠に基づいて生産できる農家を、ここ南三陸から輩出していきたいです。ミッションのひとつに地域就農者への受け入れ態勢の環境整備があります。その学校が“農”に携わりたい人の受け皿になればと思います。」
悩みながらコツコツと前へ
今は、早朝から日が暮れるまで畑で過ごす生活だという太田さん。今後の意気込みについては、「いろんな方とのご縁を大事にして、一緒に悩みながらコツコツと前に進んでいけたらと思っています。何事も楽しんで取り組みたいです。いろいろ町のこと教えてください!」と話していました。太田さんが手がける「めぐりん米」に続くめぐりん野菜、めぐりんフルーツの誕生が待ち遠しいです。
※地域おこし協力隊
地域おこし協力隊は、地方自治体から委嘱を受け、地域の魅力発信や特産品の開発、住民の生活支援など、さまざまな方向から地域を活性化させる活動に取り組む都市部からの移住者です。南三陸町では隊員が地域の生活になじむことができるよう、また起業・事業継承に向けたノウハウを学びながら活動に取り組めるよう、町内で活動している事業者・団体が隊員を雇用する形をとっています。今回新たに4名の隊員が加わり、現在、町には10名の隊員が活躍しています。