南三陸のパティシエとボランティアの葛藤の物語。 『千古里の空とマドレーヌ』公開。

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【配信は中断となりました(10/23追記)】震災前から南三陸に足を運びドキュメンタリー映画の撮影を行っていた我妻和樹監督の最新作『千古里(ちこり)の空とマドレーヌ』が10月13日(水)19:00よりオンラインで公開されます。南三陸町を舞台に描かれる、夢を追うパティシエとボランティアたちの想いが交錯する至高のドキュメンタリー。この作品について、我妻監督にお話を伺いました。

南三陸を描くドキュメンタリー映画三作目

【配信は中断となりました(10/23追記)】

2005年3月、東北学院大学の1年生だった我妻和樹監督は、民俗学ゼミの調査で南三陸町戸倉地区にある漁村「波伝谷(はでんや)」を訪れました。それ以来、大学3年間で波伝谷の暮らしを丹念に調査し、卒業後の2008年3月以降は個人で、波伝谷を舞台にしたドキュメンタリー映画の撮影を開始。自分が感じた地域の魅力、人々の生き方を伝える映画を作りたいという想いで波伝谷に足を運び続けました。

震災前の地域の営みを丹念に描いた作品で、第一作目となる『波伝谷に生きる人びと』は2015年に劇場公開。その続編にあたり、復興期における郷土芸能の復活までの苦難の道のりを描いた作品『願いと揺らぎ』は2018年に劇場公開。「山形国際ドキュメンタリー映画祭」のインターナショナル・コンペティションに入選するなど国内外から高い評価を得る作品となりました。

我妻監督最新作『願いと揺らぎ』仙台公開! 〜12年間の地域記録 記録者から伝える人間に〜(前編)

我妻監督最新作『願いと揺らぎ』仙台公開! 〜12年間の地域記録 記録者から伝える人間に〜(後編)

そして我妻監督の第三作目となる作品『千古里の空とマドレーヌ』が2021年10月公開となります。今や南三陸町の定番スイーツとして押しも押されもせぬ存在となった「お山のマドレーヌ」を手がける「オーイング菓子工房Ryo」のパティシエ・長嶋涼太さん一家と、全国から集ったボランティアたちの物語です。

未曾有の災害のなかで前に進む姿を記録

前二作から変わらないのは我妻監督と撮影対象の人物の距離感。監督自身が長期滞在し撮影しているからこそ同じ目線で会話に加わっているような感覚に襲われます。

「震災前から涼太さんとは親しくさせてもらっていて。波伝谷での撮影が思うようにいかないときも涼太さんのご家族が営むペンションOh!ingに泊まって、夜中まで話し込んだりしました。僕にとっては心の支えのような存在だったんです」と我妻監督が長嶋さんとの関係を話します。

震災後、生業としていたお菓子作りができなくなってしまった涼太さん。建設会社の瓦礫の釘抜き仕事などの復興事業に携わっていました。

「そんななか涼太さん自身もさまざまな葛藤や思いがありながら、ボランティアさんとの関わりのなかで、お菓子作りを再開して前に進んでいく姿は、今しか記録できないものだと思ってカメラを向け始めました」

被災地で浮かび上がる「葛藤」がテーマ

この映画で描かれているのは、「葛藤」。

東日本大震災という1000年に1度と言われる未曾有の大災害を経て、そこから立ち上がる地元住民となんとか力になりたいという想いで駆けつける全国のボランティア。

撮影されたのは2011年12月から2012年4月の期間。

「被災者とボランティアという関係で出会った人たち。時間が経過するなかで、人と人としてどのように関わっていくか。多くの人が悩んでいた時期だと思う」

ボランティアの「本当にその人にとって役に立つことができているのだろうか。邪魔になっていないだろうか」という葛藤。一方、被災者の側にも「自分たちで立って歩けるのに。そこまで弱い存在じゃない」という葛藤がありました。

支援を受ける側の葛藤と、支援する側の葛藤。両者のさまざまな想いが交錯しているのが、一つひとつの言葉、一瞬一瞬の表情の変化から伺えます。そして、映画を観ている私たち自身も、描かれている人物に共感して、心のなかでモヤモヤを抱えたり、頑張れと念じたり、その後を案じて不安になったり、喜んだり。登場人物と同じように心が揺さぶられて、自分ごとのような感覚になりながら物語は進んでいきます。

震災から 1 年後の被災地に生きる人びとの姿は、時代を超えた普遍性に満ちており、本作を通して私たちは、「人を支える」とは、「人のために悩む」とはどういうことなのか、自然と考えさせられていることに気付きます。まさに人と人が「ともに生きる」ためのヒントがこの物語のなかにはたくさん散りばめられていると言えるでしょう。

この映画が被災地の特別な日常を映し出して終わりのものではないと話す我妻監督。ここで映し出されているものはどこにでも起こりうる普遍的なもの。「自分の生活に照らし合わせて考えることができるのではないか」と我妻監督も話します。

あのとき被災地に想いを寄せていたすべての人に

映画の終盤では、さまざまな葛藤を経てお店をオープンし、復興する町を見つめる涼太さん一家の姿が映し出されます。宮城県内でも最多となる15万人以上がボランティアに駆けつけた南三陸町。多くの人の想いが交錯し続けた10年間でもありました。

「うまくいったことだけではなく、失敗したことや、後悔したこと、それらも含めて、たくさんのボランティアさんの経験や時間があったからこそ、この町の今につながっているはず。あのとき悩みながらもともに前に進もうとしたボランティアさんと地元住民が撒いた種が、今、花を咲かせているのではないか」と我妻監督は話します。

「あのとき被災地にボランティアに入ったすべての人。実際に現地に行っていなくても、遠くから思いを寄せていたすべての人に観てほしい」と我妻監督。

『千古里の空とマドレーヌ』は、10月13日(水)から12月30日(木)にかけて、期間限定で有料配信されます。

「このような状況下もあって、劇場公開ではなくオンライン配信をすることによって、全国どこでも好きなタイミングで視聴できるというよさがある。コロナ前から身体的事情などで映画を観に行くことができない人もいたので、オンラインで多くの人に見てもらいたいですね」

■『千古里の空とマドレーヌ』公式サイト
https://chikorinosora.wixsite.com/peacetree

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ライター 浅野 拓也
1988年埼玉県生まれ。学生時代はアフリカや中東、アジアを旅したバックパッカー。卒業後は、広告制作会社でエディター・ライター業を経験。2014年に取材でも縁のあった南三陸町に移住。南三陸をフィールドにした研修コーディネートを行うかたわら、食・暮・人をテーマにしたフリーランスのライターとして活動している。