自然を学び、活かす拠点に。「自然環境活用センター」悲願の復旧

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東日本大震災で被災した南三陸町自然環境活用センターが、戸倉公民館2階に復旧しました。震災後に多くの研究者などが集い採集した南三陸町の生き物の標本などが並びます。2月1日には復旧を記念したシンポジウムも開催され、自然調査や研究、体験活動の拠点になることが期待されています。

平成11年に開所した町営の研究・教育機関

平成11年度(1999年度)に、南三陸の豊かな自然のなかでの生物の営みを観察し、学ぶための施設として自然環境活用センター(ネイチャーセンター)は開所しました。

南三陸町の恵まれた自然環境を活用し、地域活性化を図るために「南三陸エコカレッジ事業」を展開し、地域資源の発掘と理解、そして永続的な資源活用を目的とした調査・研究、公開講座などを企画。「海藻おしば」「スノーケリング教室」「磯観察ツアー」など、さまざまな環境教育プログラムを提供してきました。

震災前の自然環境活用センター

研究者が直接立ち上げと運営に携わった町営の研究・教育機関である自然環境活用センターは、他の市町村に先駆けて任期付研究員制度を導入するなど、専門性の高いスタッフによる運営を実現した全国的にもユニークな施設として注目を集めていました。

しかし、2011年の東日本大震災で大きな被害を受けた同施設。2階建ての建物の屋上まで水に浸かり、志津川湾の生態研究成果をはじめ、長年蓄積してきた文献や論文等の収蔵資料、800点ほどあった湾内で採集された海洋生物の貴重な標本、研究に使用してきた機材等のほぼ全てを失ってしまいました。

震災で全て流出も、長年の研究蓄積が功を奏す

そんな壊滅的な状況のなかで生かされたのが、震災前まで築いてきた全国の研究者たちとのネットワークでした。

「研究機能が停止してしまったなかでも、これまで関わりのあった日本全国の有志の方々が率先して2012年から生物調査を行い、標本を集め直す作業を開始しました」と研究員の阿部拓三さんは話します。

その後「ネイチャーセンター準備室」が設立され、町内での研究教育を行っていく体制を整えてきました。さらに自然環境活用センターの再興を目指す有志の集まりである「南三陸ネイチャーセンター友の会」のサポートもあり、地域に密着した調査や研究の教育活動を続けてきました。

「多くの人に支えられた活動によって、震災によってほとんど失ってしまった生物標本も今、1000点を超えるほど集まっています。海藻だけで220種以上、動物では600種以上の記録が蓄積されています。これまでの調査研究の蓄積が、世界的に高く評価された出来事が、志津川湾のラムサール条約湿地への登録でした」と阿部さん。

阿部拓三さん

ラムサール条約湿地に登録されるためには、9つある世界基準のうちどれか1つをクリアする必要があります。そんななか、志津川湾は5つもの基準をクリア。この数は、国内に52箇所あるラムサール条約登録湿地のなかでも、琵琶湖や北海道の風蓮湖などと並び国内最多です。

「震災で壊滅的な被害を受けても、大学との共同研究などでバックアップデータが残っていた。ネイチャーセンターが震災前から続けてきた研究の蓄積があったからこそ」と佐藤仁町長も話しました。

佐藤仁南三陸町長

戸倉公民館2階に開所「新たな拠点に」

そんな「南三陸町自然環境活用センター」が、戸倉公民館(旧戸倉中学校)2階に開所しました。

志津川湾が一望できるフロアには、これまで採集した貴重な標本や、クチバシカジカ、ダンゴウオなどの南三陸町の名物となっている生き物の水槽なども展示されています。

「震災から9年を迎えるというタイミングで、戸倉の地に戻ってこれた。この場所で新たなスタート、南三陸町の自然環境の研究・教育の拠点施設となっていくことを期待したい」と佐藤町長も期待を込めました。

標本展示では南三陸町に住むさまざまな生きものについて学ぶことができる
クチバシカジカ。南三陸ならではの珍しい生き物も観察できる
写真展示なども充実
ラムサール条約登録の「認定証」も掲示

自然と人のつながりを学ぶ

南三陸町自然環境活用センターの復旧を記念して、2月1日に開催された「復旧記念シンポジウム」では、南三陸町内で活動する子どもたちの成果発表も行われました。

2019年2月に開催された「KODOMOラムサール」をきっかけに、町の自然環境や歴史を子どもたちが学び、発信する機会を作るために結成された「南三陸少年少女自然調査隊」。八幡川や志津川湾の生きもの観察、さらには同じくラムサール条約登録地である滋賀県琵琶湖で活躍する「びわっこ大使」との交流など、一年間の成果を発表しました。

「一年間の活動を通して南三陸町にはいいところがたくさんあることに気づきました。そのことを多くの人に伝えていきたい」とこれからの抱負を述べました。これからのさらなる活動に期待を抱かせてくれます。

南三陸少年少女自然調査隊のみなさん。

南三陸町立戸倉小学校では、震災前から海の体験活動を通じた環境教育が伝統として続いています。現在小学校6年生の児童たちの海での体験活動は、防潮堤や護岸工事など海の周辺環境の変化と共にありました。

「海での学習活動を通じて海を守ることの大切さを知りました。海を守るためには山や川を含めて自然を守ることが大切。これ以上自然を壊さないで済む命の守り方を考えて生活していきたいです。命を守ることは、自然を守ることと同じだと思うからです。今残っている自然を大切にして、これからも豊かな海を守っていきたいです」と体験活動での学びを報告しました。

戸倉小学校の児童
松原干潟をはじめとして継続的な調査活動を報告した志津川高校自然科学部のみなさん

南三陸町自然環境活用センターでは、このような子どもたちの体験活動を通じて、さまざまな学びを得る施設となだけでなく、世界に誇る志津川湾の調査研究の地として、全国に向けての発信の拠点となっていくでしょう。

南三陸町戸倉地区には、この度復旧した自然環境活用センターのほかに、南三陸海のビジターセンターや志津川自然の家が、そして日本で初めての海の国際認証であるASC国際認証を取得した牡蠣養殖など「自然と人のつながり」を実感できるポイントが多くあります。全国に例を見ない「自然との共生」を学ぶエリアとして、今後に期待がかかります。

インフォメーション

南三陸町 自然環境活用センター

〒986-0781 宮城県本吉郡南三陸町戸倉字沖田69番地2(戸倉公民館2階)
電話 0226-25-9703

戸倉公民館(旧戸倉中学校)の2階に開所

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