ペースト肥料が未来の海を守る?田んぼと海と環境問題

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ペースト肥料専用の田植え機を使って田植え中

これまで画期的とされていた肥料コーティングの一部に使用されているプラスチックが、豊かな海に影響を及ぼしていることが問題視されています。決して多くはないその数字に真摯に向き合い、海に近い町の農業として出来ることを模索し、実証実験に至った日の様子に密着しました。

従来の肥料が持つ課題

JA新みやぎ南三陸統括営農センターは、5月15日(月)に「水稲ペースト2段施肥」の実証実験を志津川地区廻館にて実施。これまで水田で使われてきた「被覆肥料」は稲に栄養が時間差で届くよう、ある工夫が施されていました。それは肥料をプラスチックなどでコーティングすることで適切な時期にコーティングが溶け、肥料の養分が行き渡るようになるものです。この工夫のおかげで、何回も肥料を蒔く必要がなくなり、農家さんの負担軽減や養分の流出防止といった効果がありましたが、近年ある問題が発生していました。

雨天の為、JA新みやぎ志津川支所にて行われた挨拶と事業説明

プラスチックの海洋問題と農業の関係性

実証実験の挨拶で全農宮城県本部生産資材部の堀次長は「一般消費者から『田んぼから流れてくる水にぷかぷか光るものが流れてきている』と言われまして」と、水田からのプラスチックの流出について声が上がっていることを述べました。

農業とマイクロプラスチック問題の関係性について話す堀次長

プラスチックによる海洋汚染が世界中で問題視されていますが、今回言われた”光るもの”というのが被覆肥料をコーティングしていたプラスチックだったのです。溶けなかったものが水田から流れ海にまで到達していたとのこと。こうしたプラスチックごみが海に流入することで、海洋生物の命を奪うことにつながり、私達が口にする海産物の生態系にも影響を及ぼしています。

水田を見てみると肥料を覆っていたプラスチックの殻が露出しているのが分かります

海洋汚染の中でも農業プラスチックが占める割合というのは決して高くありません。それでも、すでに流出しないよう対策案が講じられていますが、この問題に取り組むことの意味についてJA新みやぎの阿部理事は「今世界の状況を見ますと、農業者としてこの海洋プラスチック問題に取り組むことは、まさに大切だなと。海に近い町の農業だからこそ考えねばならない」と、海と深く密接なつながりがある町の農業だからこそ、取り組めることは率先して行う姿勢を見せました。

ペースト肥料が持つメリット

今回の実証実験で取り扱うのは「ペースト肥料」になります。液肥とはまた異なるもので、こちらは田植えの際に上段と下段に分かれているノズルから、決められた位置に正確にペースト肥料が施されます。

ペースト肥料が詰められたタンク
ペースト状で硬さはバナナスムージーくらいとのこと

従来のものに比べて肥料が拡散・流出しにくく、効果が一定期間持続し、上段と下段に高さを分けて肥料を入れることで効果が出る時期を調節することが可能です。

専用のノズルがついた田植え機

田植え時に2段施肥することで追肥の必要がなくなる「一発施肥」が今回のペースト肥料の特徴です。この日は実際に2つの田んぼに異なる品種の稲を植えるので、それぞれに合わせた肥料を散布しました。

上段が植え初めに効き、下段は少し成長してから効き始めるようになっている
肥料が出るところを実演している様子

ペースト肥料を使うと、これまで使われてきた粒状肥料をコーティングしている被覆殻や肥料を梱包している袋に使われるプラスチックが無くなることが環境的なメリット。また、肥料自体の効果も大変高いです。粒状肥料は田んぼ全面に施肥するため約2割の養分が土中に残り無駄に。一方、ペースト肥料はすぐ根本に施肥するため100%養分として効果を発揮し、全体的に見れば2割の肥料を削減できるのです。

コスト的にも農家の規模が大きくなればなるほどその効果は大きくなり、長い目で見ればこれまでの肥料よりも経費を抑えられるとのことでした。

実証実験の広がり

今回使われたペースト肥料を取り扱う片倉コープアグリ株式会社の伊藤さんに実証実験について伺いました。「全国100箇所以上のところで実証実験をしており、それぞれの場所に合わせた肥料を選んでいます。宮城県では今年中に県内で14箇所実施を予定していますね」

田植え機にペースト肥料を供給する伊藤さん

全国でのペースト肥料の普及率については「日本の施肥の約3%がペースト肥料」とのこと。その割合を今後増やしていきたいが、障壁としてやはり専用の田植え機が必要になることだそうで、伊藤さんは
「一般的に田植え機は7~8年使う方が多いので、すぐに乗り換えるというのも難しいのかと。行政や国の助成などが付いてくるとまた変わってくるのかなと思います」と話します。
環境への配慮とそれにかかるコストはどうしても発生してしまうもの。現場への導入、普及に向けた支援策が待たれます。

大きな課題の中で自分たちに出来ること

JA新みやぎの阿部理事は今回の取組の経緯について「海洋プラスチックへの課題がだいぶ問題になっている中で、それを農業分野としていくらかでも減らしたい、課題解決に向けて取り組みをしていきたいという中での一環でスタートしたわけです」

「少しでも出来ることをやっていくのみ」と語る阿部理事

南三陸・気仙沼地域では昨年に続き二度目の実証実験となった今回は、環境保存米へのペースト肥料施肥の検証も実施。このことについて阿部理事は「南三陸などリアス式海岸の地域では、海から吹く季節風“やませ”の影響により、いもち病が発生しやすく、対策が重要視されているが、初期から肥培管理を徹底することによって、病気も防げるのではないか。そこで、農薬や化学肥料の量を減らした環境保全米の基準に準じた栽培を実証することになった」と地域特有の自然環境に対しても効力があることを期待しています。

美味しいお米になるのが楽しみです

無駄のない肥料の効率性を十分に活かし、環境問題を十分考慮した上でもこのペースト肥料を使った取り組みがもっと拡大するには、農業者や消費者、地域の皆さんに理解をしてもらうことが必要です。環境に対して自分たちが出来ることを考え、実践していく大切さを感じられる機会でした。
今回植えたお米は9月末ごろ収穫予定とのことで、稲刈りと実食が今から待ち遠しいです。

 

 

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