里山を包む幻想的なホタルの光は、農家の暮らしがあるからこそ。

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写真提供:一般社団法人南三陸研修センター(2020年撮影)

南三陸町入谷地区でホタルの幻想的な光が里山を包んでいます。ゆらゆらと点滅しながら舞う姿に思わずうっとりと心癒されます。天然のホタルの観察が貴重な今、なぜ南三陸町ではホタルが観察できるのか?その秘密を農学博士のむかっち博士に伺いました。

揺らめく幻想的な光景

暗闇のなか幻想的な黄緑色の光が点滅しながら揺らめく幻想的な光景。南三陸町入谷地区では6月中旬頃より用水路脇や田んぼで淡い光を放ちながら舞うホタルの姿が確認できます。ジメジメとした夜に飛ぶ幻想的な姿はまさに初夏の風物詩。その幻想的な光景を目にしようと地域住民らが訪れています。

写真提供:一般社団法人南三陸研修センター(2020年撮影)

ゲンジボタル・ヘイケボタルが主に飛び交う南三陸では、年によって若干の変動はありますが、例年6月中旬から7月上旬にかけてはゲンジボタル。7月中旬から8月上旬にかけてはヘイケボタルが里山を舞う姿が確認できます。かつては多くの場所で確認できたとされるホタルですが、都市化など環境の変化によって天然のホタルを見られる場所はなかなか多くありません。そんななか、南三陸では入谷地区のほか、戸倉地区や歌津地区でも飛ぶ姿を確認することができます。それはなぜか?入谷地区の生き物調査などを行う向井康夫さん(農学博士・通称:むかっち博士)に伺いました。

農業という生業を維持することがホタルの生息につながっている

「ゲンジボタルは浅く流れが緩やかな川や用水路で成長します。さなぎになるときに陸にあがるのですが、コンクリートで護岸工事をしていると陸に上がることができません。草が生え、やわらかい土があって陸に上がることができるかどうかがホタルの生育にとって大事な要素となります。ヘイケボタルは田んぼなどの流れのない湿地が生息場所となっているので、それが維持されていることが大切です」

ホタルというときれいな清流に生息しているようなイメージがありますが、そんなことはなく、「どちらかというと人々の暮らしに隣接した場所に生息している」とむかっち博士は話します。

例えば、ゲンジボタルがエサとするのはカワニナという巻貝で、カワニナは藻類を食べています。藻類が生えるためには、田畑から肥料が少し流れてきたり、生活排水が少し入っているほうがよいそう。ヘイケボタルも田んぼを維持管理していくことが自然と生息につながっているのです。

「農業という営みをしていく上で、必要な場所を管理していくことによって、ホタルの生息に必要な環境を自然と維持することができているんです。里山の入谷地区でとくにホタルが見られるのは、自然と密接に関わり、田畑を維持する農家がいるからこそ」とむかっち先生は話します。

環境との共生を目指した震災後のまちづくり

分水嶺に囲まれ、循環型のまちづくりを行う南三陸町では、山ではFSC国際認証を、海ではASC国際認証を取得するなど環境に配慮した取り組みが世界的評価にもつながってきました。2018年には、志津川湾がラムサール条約湿地にも登録されるなど震災後の取り組みが成果を見せ始めています。

里でも、無農薬無肥料のお米作りや、なるべく農薬を使用しない減農薬栽培、生ゴミを分別回収しメタン発酵させるバイオガス施設「南三陸BIO」の副産物として生まれる液体肥料を使った栽培など環境に配慮した取り組みへの挑戦が行われています。

震災後に取り組んできたまちづくり。そのこともホタルの生息に少なからず影響を及ぼしているのかもしれません。

写真提供:一般社団法人南三陸研修センター(2020年撮影)

ホタルを鑑賞する際のマナー

ホタル鑑賞の際には下記のことに注意してください。

・光は厳禁
ホタルはデリケートな生き物で強い光を嫌うので、車のヘッドライトなどを向けないようにしましょう。懐中電灯やカメラのフラッシュも控えること。

・生息エリアを汚さない
川が汚れるとホタルが棲めなくなるので、ゴミは持ち帰ること。

・私有地に立ち入らない
近隣住民の迷惑になるような大声や、私有地への立ち入りはしないこと。

・ホタルを捕まえない
ホタルの寿命は短いので捕まえて持ち帰ったりしないこと。

 

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