イヌワシと共生する林業へ向けた挑戦スタート

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絶滅の危機に瀕するイヌワシの姿を再び取り戻すために、林業の現場から新しいチャレンジが始まろうとしています。2018年12月8日に開催された「イヌワシと共に暮らせる林業を目指して」と第したシンポジウムの様子をレポートします。

生物多様性の象徴でもあるイヌワシを再び!

南三陸のシンボルバードは何か知っていますか?

国の天然記念物にも指定されているイヌワシです。現在、日本におけるイヌワシの推定生息数は150~200ペア、単独個体を含めても500羽ほど(日本イヌワシ研究会)と少なく、繁殖成功率の低下とあいまって絶滅の危機に追い詰められています。

「気仙沼から牡鹿半島までの南三陸エリアでも、もともと4ペアのイヌワシが確認されていました。しかし、ここ10年ほどで急激に減少。後は1ペアしか確認できず、そのペアも最近ではオスしか見られず、ペアを維持できていないのでは、という現状です」と話すのは、南三陸ネイチャーセンター友の会の鈴木卓也さん。翼を広げると端から端まで2mほどの大きさとなるイヌワシ。「餌となるウサギなどを採るためには草地や伐採地が適していますが、管理がされていない混み合った森が多くなってしまいイヌワシが住みにくい環境になってしまっている」と続けます。

南三陸ネイチャーセンター友の会の鈴木卓也さん

南三陸ネイチャーセンター友の会としても「南三陸町のシンボルバードを戻そう!」と活動を開始。山火事の延焼防止のために尾根沿いの木々を刈り払う「火防線トレイルプロジェクト」を開始しました。火防線は山火事の延焼防止の機能はもちろん、イヌワシが狩りをしやすいような環境になることも期待しています。

「イヌワシが住み続けることのできる森を維持していくことは、生物多様性の象徴でもある」と鈴木さんは話します。

整備した火防線をトレイルで楽しむ(写真提供:南三陸ネイチャーセンター友の会)

全国初となる官民連携の取り組み

こうした状況にある南三陸町において、イヌワシの森を再び取り戻すために、全国初となる連携が生まれました。南三陸町で林業を営む株式会社佐久と東北森林管理局、さらには地元南三陸町がイヌワシの生息環境の再生を目指して連携することを発表。全国初の「官民連携」の取り組みとして、イヌワシの森の復活を目指します。

「これまではイヌワシの保護と林業は対立することが多かった。しかし持続可能な林業のあり方と生物多様性は重なり合うことも多い。イヌワシと林業は両立するとの立場に立った今回の取り組みは画期的。この取り組みが近隣市町村あるいは全国にも広がっていくことを期待している」と日本自然保護協会の出島誠一さんは話します。

対象地域となるのは、日本で三番目にイヌワシの繁殖が確認された南三陸町戸倉地区にある翁倉山(おきなぐらやま)一帯。伐採と再植林を計画的に実施することによってイヌワシの狩り場となる山の開けた環境を維持するとともに、民有林と国有林が隣り合うエリアでは作業道や木材置き場などを共同で利用し、木材出荷に取り組みます。

シンポジウムには町内外から多くの人が集まり、注目度の高さがうかがえる

イヌワシを守る森として木材のストーリーをプラス

「イヌワシ配慮型の森林計画を立てました」と話すのは、株式会社佐久の佐藤太一さんです。予定では翁倉山域の林地を5年間で5haほど皆伐を行うといいます。「皆伐をして、再植林をする。植林したての山は、10年間ほどはイヌワシにとっても餌場となるような場所になると考えられます。そして時期をずらして5haほど皆伐していくことで、イヌワシが常に狩りをできるような環境を作っていきたい」と意気込みを話します。専門家のモニタリングを通じて、餌となる小動物や植物の変化などの情報収集を行い、意見交換しながら計画に反映をさせていくと話す佐藤さん。

さらに、そうして生み出される木材は「イヌワシを育む森」というストーリーも付加価値になることが期待されています。既に株式会社ラッシュジャパンが展開する店舗では、イヌワシを守る南三陸の木材として、イヌワシのロゴマークが刻印され店内の什器として活用されているなど、注目を集めています。

「木材そのものの質はもちろんだが、国際認証とあわせて、どういうポリシーで山を育てているのか、というストーリを伝えていきたい」(佐藤さん)

南三陸町のシンボルバード復活に向けて、官民連携して大きな一歩を踏み出しました。復興の象徴として、この南三陸の空を再びイヌワシのペアが羽ばたく日を楽しみに、これからの展開を注目していきたいと思います。

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