2022年10月15日・16日に、南三陸自然環境活用センター(通称:ネイチャーセンター)にて、第1回南三陸いのちめぐるまち学会大会 いのちめぐるまちの現在(いま)とこれから -ネイチャーポジィティブで目指す豊かさ- が初開催されました。今回の記事では第1部の様子をレポートしていきます。
南三陸いのちめぐるまち学会とは?
南三陸いのちめぐるまち学会とは、南三陸をフィールドとして、【めぐるがみえる】に関する知見を集め、持続可能な社会の実現に向けた知恵を、研究者と市民が共有するための集まりです。(引用:https://inochi-meguru.net )
一般的な学会とは異なり、分野という垣根を超え学際的な議論をおこし、地域の社会課題にダイレクトに向き合うことで得られる【めぐるがみえる】を追求することで持続可能な社会に貢献することや知見の蓄積、交流を目的としています。
初代学会長の佐藤太一さんは、「震災前から研究者の皆さまが町に関わって研究のフィールドに使ってくださったり、企業さんとともに新しいプロジェクトが生まれたりということが多い地域だと思っています。この特徴をさらに加速させるために、情報交換や交流をもとにさらに新しいモノが生まれたり知識を蓄積する機会となれば、ということで学会を立ち上げようという話になりました。定員60名のところ、80名超えの皆さまにお集まり頂いたこと嬉しく思います。学びの多い時間を過ごせたら幸いです」と挨拶しました。
今回のテーマは「いのちめぐるまちの現在(いま)とこれから ネイチャーポジティブで目指す豊かさ」
これまでの私たちの生活は自然の恵みを搾取して環境を悪化させる方向で進んできました。この現状をいかに逆転させることができるのか。企業の活動や私たちの普段の暮らし方によって、環境がよくなる方向に進むネイチャーポジィティブの状態にもっていくのはどうしたらいいのか、ということを今回の学会を通じて考えて頂きたいという願いが込められています。
学会当日は、86名(町内45名・町外41名うち県外21名)が参加。こうした取り組みの注目度の高さが伺えました。
これまでの南三陸でなにが起こったのかを紐解きます
対談① いのちめぐるまち前夜・めぐる里のしくみ
「ご縁としか言いようがない」と話すのは、アミタHDの佐藤博之さん。震災直後、南三陸町にボランティアで入り活動しているなかで、今までアミタが行ってきた事業と南三陸の資源や考え方がマッチし、実現に至ったとのこと。生ごみをエネルギーに変えるバイオガス施設南三陸BIOを2015年から運営していますが、その実現には多くの壁があったといいます。そのなかでも、①液肥を農家さんがつかってくれるようになるまで ②液肥散布にあたっての課題をどう乗りこえたのか という点にフォーカスした対談が行われました。
一点目はバイオガス発電の副産物として出てくる液体肥料の活用での話で、ほかのバイオガス施設では浄水処理を行って河川に放流してしまうことも通例となっていますが南三陸では全量町内で有効利用することを目標にしていました。そこで欠かせないのが協力してくれる農家さん。常にチャレンジを続け、新しいものが大好きな農家の阿部勝善さんが手を挙げ、試験栽培が実現。しかし、人がホースで撒いたのでは撒きむらが生じ、肥料分が均等に土に入らず作物の生育にも悪影響が出ることが分かりました。多くの農家さんに使ってもらうには、撒きむらをどうにかしなければなりませんでした。
そこで重要な役割を果たしたのが山藤運輸の佐藤克哉さんでした。山藤運輸が液肥散布車を導入して事業に参入することで、むらなく効率的に液肥を田畑に散布することを実現。佐藤さんがこの循環の輪に加わったのは、震災時にエネルギーや食料の枯渇を体験し、地域でエネルギーが生まれることに共感したことがきっかけだったといいます。さらに、本業のドライバー職では「ありがとう」が言われることが多くない環境のなか、液肥散布を通じて直接農家さんと関係することで農家さんから感謝され、従業員がやりがいを直に感じることができる貴重な機会なっていると話しました。
こうして課題を克服し、液肥栽培は町内各地へ波及。生ゴミ処理の副産物として生まれる液肥をすべて町内の農地に還元できている全国的にもまれな成功事例となっています。この対談を通じて佐藤博之さんは、「みなさんの思いがめぐって繋がっていることに価値があり、アピールポイントだと思う」と締めました。
対談② いのちめぐる森と海を目指して
南三陸町戸倉地区は牡蠣養殖が震災前から盛んに行われてきました。しかし、震災前は「密植」により一年で収穫できるものが二年・三年かかるようになり、品質低下や費用の増加という悪循環をおこしていました。
震災によって養殖施設が全て流され、ゼロからのスタートとなったとき、今までの養殖方法を刷新し、筏の数を3分の1に減らすという3分の1革命を起こしました。この革命により、生産量は2倍・生産額は1.5倍・経費4割減・労働時間4割減という好循環を生み出すことができました。そして、国内初のASC認証を取得。3分の1革命とASC認証により、子ども達に誇れる漁業となり、結果、20代の後継者が増加するに至りました。
そして、「海だけでなく、管理の行き届いた山の存在は大きく、『山は海の恋人』というようにこれからも一緒に頑張っていきたい」と戸倉カキ部会 後藤清広さんは語りました。
「山の財産は今後も残り続ける。だからこそ、活用し続ける必要がある」と話すのは、南三陸森林管理協議会 佐藤太一さんです。震災後に佐藤さんが南三陸に戻ってきたときには、町が既に持続可能なまちづくりを掲げ旗振りしている状況だったといいます。そのビジョンの実現に向け、町の77%の面積を占める森林の正しい資源活用や持続可能な林業を実現しなければという使命感のもと、 「森林の価値を高めている客観的な証であるFSCⓇ認証の取得に向けて動いた」と話します。
現在は、町内の山林のうち30%弱がFSCⓇ認証を取得。
そして、海との関係については、「『山は海の恋人』という言葉を超え、夫婦のようなものだと感じている。是非、コラボレーションしていきましょう」と語っていました。
(後編へつづく)