ミシガン州立大学の社会学博士課程に在籍し、研究のため南三陸に長期滞在中のケーリー・ワードさん。ボランティアや農業支援などで、地域の人たちと交流を深めています。ケーリーさんに南三陸への想いを聞きました。
自身の体験から、南三陸のコミュニティ再建を願う
ケーリー・ワードさんが初めて南三陸を訪れたのは、2014年のこと。アメリカの大学で日本語を勉強し、5か月間の日本留学中に、東北の被災地を回りました。そして、南三陸でコミュニティ支援を行うNPO団体の代表と出会い、自分にも何かできることがあればと、活動に参加することに。以後、毎年3か月ほど南三陸に滞在し、ボランティアを行っています。2019年9月からは、大学院博士課程の研究のため、2020年8月まで1年間の予定で滞在中です。
「日本に興味をもったのは高校のときでした。授業で日本のことを学び、東北のことも知りました。東日本大震災が起こったときには、とても胸が痛みましたよ…」とケーリーさん。実は、ケーリーさんも被災の経験があるのです。出身地であるカリフォルニア州のラモナという町は、2003年と2007年に大きな山火事に見舞われました。
「自分の町が山火事で焼き尽くされ、災害復興が自分にとって大切なテーマになりました。南三陸を訪れたとき、町の状況がラモナのようで、他人事とは思えませんでした。山火事の後、ラモナのインフラは復旧しましたが、コミュニティは分断されてしまい、人々の絆は壊れ、バラバラになってしまったのです。南三陸にはラモナのようになってほしくありません。地域の人々が団結する力を高め、南三陸が町としてひとつになること。それが私の願いです」とケーリーさんは話します。
ケーリーさんはコミュニティや絆をとても大事にしています。毎年恒例のクリスマスイベントでボランティアをするほか、滞在中は農業のお手伝いも。漁師の会の催しに参加したり、英会話教室で講師を務めたりと、積極的に地域の人たちと交流しています。そのため、町ではちょっとした有名人。よく声をかけてもらうそうです。「南三陸には温かい人が多いですね。ここでの人間関係にはとても満足しています」と笑顔で話します。
つながりを強め、新たな結びつきをつくるには?
大学でコミュニティ再建に必要なスキルを学んだケーリーさんは、現在 ミシガン州立大学の社会学博士課程に在籍し、被災地コミュニティの修復について研究しています。南三陸に滞在しながら、住人の人脈や人間関係を理解することで、コミュニティの関係性を改善・強化する方法を探るプロジェクトを進めています。
「絆を強くし、新たな結びつきをつくるには、コミュニティイベントを行うことが有効。このプロジェクトによって、よいつながりを作るためにはどのようなイベントが適切かを知ることができます。私の研究がコミュニティの団結に役立てられたら…。また、このプロジェクトは、南三陸と同じ問題を抱えているほかの地域にも展開できます」とケーリーさん。2020年8月までに研究データをまとめ、その結果を地域の人たちに発表する機会を設ける予定です。
「震災後の南三陸では、社会資本が高い状態、つまり住人たちが団結していました。しかし次第に下がってきた…。今は『団結したいけど、どうしたらいいかわからない』という声も聞かれます。私は、そのような町の人たちをサポートしたいと思っています」とケーリーさんは想いを語ります。たとえば、志津川だけでなく、入谷、戸倉、歌津でもコミュニティイベントを開催し、地域を越えた交流によって新しい関係を築くことを、ケーリーさんは提案しています。
「南三陸は海や山など自然と共に生きる町ですが、未来のためには『人と共に生きる町』にしなければいけないと思います。南三陸ならではのもの、それは『町の心(Heart of the town)』です。町の心とは、人の心や人の希望のこと。温かい心の人が住んでいたら、そしてみんなが団結したら、温かい町になります。南三陸がそんな町になれば、もっと多くの人がやって来るでしょう。そんな町を一緒につくっていきましょう!」