時代と共に変化してきた郷土芸能~長清水鳥囃子~

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南三陸町で継がれている郷土芸能を紹介する連載「願いと揺らぎ~南三陸で紡がれる郷土芸能~」。今回は戸倉地区長清水(ながしず)集落に伝わる、「長清水鳥囃子(ながしずとりばやし)」のご紹介です。幾多の災害を乗り越え、時代と共に変化して現代に残されています。その保存会の会長を勤めている佐藤泰一さんに話を伺いました。

起源は不明、歴史的資料も一切ない~長清水鳥囃子~

南三陸町の中でも、南側に位置している戸倉地区。その戸倉地区の先端の方にある長清水(ながしず)集落で継承されているのが今回ご紹介する「長清水鳥囃子(ながしずとりばやし)」です。

長清水は山と山の間の平地にある、小さな集落です。昔は炭焼きや塩造りが盛んな集落でした。災害が多く、中でも火災が多く数年に一度大火事があるほど。昭和28年頃にあった大火事では約30件あった家の10件が消失しました。8年前の東日本大震災でも大きな被害を受け、集落は壊滅状態となりました。

昔から多くの災害に見舞われていることから、長清水鳥囃子に関する歴史的な資料は現代には一切残っていません。起源として言われているのは、現在の登米市から木を切りに来ていた人達に教えてもらったということ。夜の宴で披露したことが始まりではないかということです。「鳥獣や害虫を追い払い、安泰祈願」の意味が込められていると言います。しかし、それらも資料がないことから頼りは言い伝えられている記憶のみ。今では、どの時代のどこから継承された郷土芸能なのか知る人はいません。

震災直後、復活の後押しとなった子ども達の集合写真。

派手さがない、型にはまらない芸能

長清水鳥囃子の特徴として、「単調なリズムで派手さがない」ことだと現保存会会長の佐藤泰一さんは言います。本来お囃子ですと集落を練り歩いたり、派手な衣装や変化のあるリズムなどそれぞれに特徴があることがほとんどです。

長清水鳥囃子も“昔は部落を歩いていたのかもしれない。一部のリズムしか覚えてなかったのかもしれない”とさまざまな憶測があります。長清水鳥囃子の継承では、途中途切れていた時代もありました。再起した時は、リズムは一定で何も変化も派手さもなかったと言います。そのため、周辺地域のお囃子を参考に考案・改良されたのが、現在に残る長清水鳥囃子です。今の演目は獅子が転がったり、リズムが早くなったりとステージ向けに考案された演目になります。歴史的な資料がなかったことで型にはまることなく、変化して来たのも今ではこの長清水鳥囃子の特徴だとも言えます。

基本的には獅子がステージを行ったり来たりする(提供:南三陸町立志津川中学校)
参考:入谷打囃子では衣装や飾りが派手な上、獅子が跳ねたりする。

保存会設立とその後の広がり

現在保存会の会長を勤めているのは、佐藤泰一さん。保存会が設立されたのは、佐藤さんが20代の頃でした。JR陸前戸倉駅の開業式典に出演依頼があり、その依頼を機に保存会を設立。当時は契約講(※)の講員を中心にメンバーが集められ、道具も保存会の設立に伴い一通り揃え、継承活動を本格スタートさせました。佐藤泰一さんは「当時はやらされている感じが強かった」と振り返ります。そのため、やる気に差があり、得手不得手から投げ出す人もいました。

その後は、小学校で披露するなどして長清水集落を中心に活動を広げていきました。平成になってからは、ふるさと学習の一環として中学生を対象に郷土芸能の継承活動が始まりました。震災後閉校してしまった旧戸倉中学校では毎年文化祭に合わせて、生徒達が練習。長清水鳥囃子と以前ご紹介した行山流水戸辺鹿子躍の2つの郷土芸能を文化祭で披露していました。震災により道具は流失し、一時は継続することも危ぶまれました。しかし当時の教員や子ども達の後押し、支援もあったことでなんとか復活を遂げました。現在では統合先の志津川中学校で、継承活動が行われ文化祭で生徒たちが披露しています。それでも年々生徒数は減少しているためか、思うような人数は集まっていません。一部の演目を変更することで継続しているのが現状です。

※昔の村落組織の1つ。家の建築やふき替え、冠婚葬祭など生活互助の役割を担っていました。

長清水鳥囃子保存会会長の佐藤泰一さん

継承が難しい時代に「不撓不屈」

どの郷土芸能も継承が難しい時代に来ていることは間違いありません。継承するのにも人やお金が必要です。これからの時代「なんとしても残すんだと強い意志がないと難しい」と佐藤泰一さんは話していました。演目の最後は獅子がくわえた垂れ幕を下し、掛け声と共に演目が終わる長清水鳥囃子。昨年度の文化祭で、垂れ幕に書かれていた文字は、強い意志をもって、どんな苦労や困難にもくじけないという意味の「不撓不屈(ふとうふくつ)」。これからの時代に向け、佐藤泰一さんが未来をつくる子ども達と長清水鳥囃子継承の想いが込められた四文字に感じられます。

昭和から平成。そして令和と時代の変化は大きく、生活の在り方も大きく変化してきました。郷土芸能も継承の歴史の中で型にはまるだけでなく、何かしらの変化をしていくことも時には必要なのかもしれません。いつしか若き継承者が現れ、今後も続くことを願っています。

「不撓不屈」:どんな苦労や困難があっても、強い意志を持ってくじけないこと。(提供:南三陸町立志津川中学校)

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