【福興市100回開催に向けて①】不屈の商人魂。市から福を興す/山内正文さん

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東日本大震災からわずか1ヶ月半で立ち上がり、南三陸の復興を象徴する存在となった福興市。2020年4月に100回開催を迎える福興市に向けて、関わる方々の想いを届ける連載企画です。今回は福興市実行委員会実行委員長の山内鮮魚店山内正文さんにこれまでの福興市を振り返っていただきました。

絶望のなか、市から福を興す

2011年3月11日、東日本大震災によって壊滅的な被害となった南三陸町。家も、商店も、工場も、なにもかも失ってしまった町に絶望を覚えた日。しかし、その日からわずか50日余り。避難先のひとつ、町立志津川中学校には多くのテントが並び、商人たちの威勢のよい声が響いていました。それこそ、南三陸福興市。

「単なる復興ではない。市から福を興す。そう願いを込めていました」と話すのは、福興市実行委員長の山内正文さん。町を代表する魚屋さんの一つである山内鮮魚店の2代目社長でもあります。自らも、自宅、工場、店舗を津波によって失ったなか、決して下を向くことなく、商人の復活に向けて歩みを進めたのでした。

「今振り返ってみると、本当に困難な状況でのスタートでした。ただ町が全滅したときに、なんとかしなくちゃいけないという想いがあった。どんよりとした空気のなかで、まずは商人だけでも元気にならなくちゃいけない、そう思っていました」

志津川中学校で開催された第1回福興市のようす

震災前に築いたネットワークが功を奏す

震災からわずか50日余りでの福興市開催は、全国の商店街と連携した「ぼうさい朝市ネットワーク」の支援により実現しました。

この「ぼうさい朝市ネットワーク」とは、震災前の平成20年から、津波などの有事の際にお互いに支援し合うことを目的に始まった取り組み。山内さんが震災前に店を構えていた「おさかな通り」の商店主たちは実行委員会を組織し、このネットワークに加盟していました。

今現在でも南三陸との強いつながりをもつ、山形県酒田、岡山県笠岡をはじめとして、鹿児島、愛媛、福井、兵庫、愛知、和歌山、長野など全国各地の商店街の店主が、南三陸の窮状に立ち上がりました。
「今考えると、普段からのお付き合いが本当に大切なんだなって実感します。震災前にも、みんなに怒られながら全国で開催される市に出店したり、モノを送ってやったりしていたんだけどさ。そういうなかで生まれた繋がりがこんなにも生きるんだもんな」と感慨深く振り返ります。

売るものも十分でないなか、全国のネットワークや近隣の町から物を取り寄せ、販売しました。「なによりも商売ののろしをあげることが大切だった」と山内さんは話します。

2011年4月29日、30日。震災からわずか50日たらず。多くの町民の避難先でもあった町立志津川中学校の校庭で開催された福興市には多くの町民が駆け付けました。震災以降、離れ離れになっていた町民が、被災後初めて再会し、抱きしめ合い、涙を流す――。そんな光景を見ながら「続けられるところまで続けよう!」と決心したといいます。

南三陸のファンになるきっかけにも

毎月最終日曜日を基本として開催された福興市は、町民のみならず多くのボランティアも集う場になっていきました。会場で交わされる地域の人々の声や、会場を埋め尽くすほどの賑わいは、「こんな何もなくなってしまった状況で、店の再建なんて無理だ」と諦めかけていた商店主の心に再び火をつけました。

「福興市を続けてきたことで、商店主の自信にもなったんだよね。それがきっかけで、仮設商店街の立ち上げに至った。今の南三陸を象徴するさんさん商店街やハマーレ歌津は、ここからはじまっている」と山内さんは話します。

さんさん商店街の商店主や仲間たち

「単純にボランティアして終わりじゃなくて、福興市があることで、楽しんだり、お買い物できたり、町民とお友達になったりできた。それが大事なことだった」

たくさんの南三陸ファンを生み出すきっかけになった福興市。

「100回の記念開催の時には、今まで関わってくれた方々を呼んで、御礼して、みんなでお祝いしたい。商人が楽しんで、お客さんも楽しんで、そして物が売れることが町の力になる。それはこれまでも、これからも変わらない」

100回の開催のあとはどうするのか?そう尋ねると、

「この市がみんなが集まるきっかけになっているし、復興の力になっているのは間違いない。そのあとも続けていくことができれば…」と話します。

震災翌月から南三陸の復興に挑む商人たちの象徴ともなった福興市。「毎回開催のたびにいろんなドラマがあったなあ」と振り返る山内さん。

不屈の魂をもつ商人たちはもちろん、全国から駆け付けた企業やボランティア、町内有志団体など多くの人々の支えによって、福興市は100回開催を迎えます。本連載では、そんな福興市に関わってきた人々へのインタビューを通じて、これまでの福興市を振り返るとともに関わってきた方々の声を届けていきます。

 

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