「スポーツを心から楽しめるように」/阿部純子さん

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南三陸町のスポーツ団体を紹介するこのテーマ。2回目は子どもたちの「初めてのスポーツ」の場を作っている阿部純子さんの「Hop Kids Club南三陸」を取材しました。震災後に感じた違和感から子どもたちへの想いをお聞きしました。

噂の人物だった純子さん

以前、町内でスポーツに関する活動をしている人を探していると色んな人に相談していた時、必ず名前が挙がったのが阿部純子さんでした。今回取材のためお邪魔したのは歌津にある「平成の森」。時間になると子どもたちの元気な挨拶がアリーナに響きます。

とそれ以上に大きな声で挨拶をしているのが純子さんでした。「さ、今日もいっぱい身体動かすよー!」

到着早々、走り回ったりボールで遊ぶパワフルな子ども達

出来た!を感じるプログラム

この日はマットを使った運動が中心。アップで全身運動を丁寧に行います。

小ダッシュ、ハードリング、学校の体育などではあまり見かけないですが、様々なスポーツに応用できる動きを取り入れています。

「○○くん!いいねー!もっと細かくステップ踏んでみよっか!」

「こないだよりできるようになったねー!すごい!」

純子さんはアドバイスもそうですが、子どもたちの良い動きを見つけ、教えていました。

どういう動きが正しいのか、体を正しく動かせているのか、これを自分で“わかる”かどうか。認知させることで「出来ている」という達成感を得るのに必要な声がけです。

いよいよメインのマット運動。倒立前転と側転、そしてバク転の練習などをしました。

出来る子にはチャレンジを、もう少しの子は支えつつも自分で出来るようなコツを教えています。

全て純子さんがサポートするわけではなく、あくまでも子ども自身が出来るようになるために。一歩引いた距離感で教えているのが印象的でした。

「せーの・・・それっ!踏ん張れー!」

体を支えつつ、倒立時のコツを教える

インストラクターから始まったお仕事

純子さんがこの活動を始めたのは2013年の5月あたり。
最初は娘さんとその友達に楽しい運動を教えようと始めたと言います。

「大学を卒業してから、スポーツクラブのインストラクターとして働いていました。その後、営業課長にもなり29歳まではそのクラブで働きました」

それからシステムエンジニアに転職、結婚し歌津に暮らすようになり、10年ほど前から現在のようなフリーのインストラクターになったそうです。

「町外にも仕事で行きます。幼児から高齢者まで幅広く接しています」

町外どころか県外まで行っている本当にパワフルな純子さん。そのスポーツへの熱い想いについて聞いてみました。

マットを片付けた後はドッヂボール!これもまた運動の一種。

体を動かす楽しさを知るために。

「始めた頃は町内の広場は全て仮設住宅だし、復興というよりは復旧作業で遊び場がないので、少しでも思い切り動ける場所を!と思って始めたけど、今は道路もよくなり、習い事に通える範囲が広がり、スポ少の選択肢も増え、私が提供しなくとも動けるようになったんだな、とは思います」

「それでも、遠方に通えない、スポーツ少年団に入るほどではない、どちらかと言えば運動が苦手な子はいるので、そんな子どもたちにも運動の楽しさを教えたいと思います。“スポーツ”の楽しさではなく“運動”の楽しさです」

純子さんの中で、スポーツと運動の違いについて聞くとこのように教えてくれました。

「日本だとスポーツ=競技性を持つ運動、と捉われがち。そうではなく『体を動かす楽しさ』を身に着けさせたいです。それから、スポーツ少年団という『単一のスポーツ』でなく、小学生のうちに身に着けたほうが良い様々な動きをモットーにしています。スポ少の選択肢が増えたとはいえ、この町で世の中の様々なスポーツに触れる機会は少なく、それ以外のスポーツをやりたくなった時に役立つような、そんな指導を目指しています」

成長を感じられる空間に。

固定の種目の競技力向上ではないため、なかなか成果が見えにくいこともあります。

「今日、明日の成果は見えにくく、続ける意欲へとつなげるための工夫は必要ですが、その子が5年後に『やっててよかった』と思えるような運動を教えていきたいですね」

純子さんはそう言うと「前にこんな子がいてね」とある男の子の話をしてくれました。

「運動音痴の子だったんだけど、ここで逆立ちの練習をしたら出来るようになって。その後学校の授業で逆立ちをみんなでやる時にみんなの前で披露したんですって。そしたらその瞬間からみんなのヒーローですよ、その子!他にも、出来ないからやりたくないと体育館の隅っこにいたような子も、どんどん足が速くなってからは他のことも積極的にやるようになりましたね」

子どもたちのそうした成長を間近で見られるのが心から嬉しい。
先生であり、お母さんである純子さんだから気付ける子どもの成長。

小さな「できた!」をコツコツ積み重ねて行くことで、自信へと繋げていく。
スポーツや運動の本質を形にした「初めてのスポーツの場」は今日もまた笑顔に包まれていました。

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ライター佐藤慶治
1993年福島県相馬市生まれ、南三陸町育ち。 東日本大震災当時は志津川高校の二年生だった。震災の翌年に仙台の大学へ進学し生涯学習を専攻。その中でも特に地域スポーツについて学ぶためにフィンランドへ1年間留学。その後、2016年4月に南三陸町へUターンし、観光協会に3年間勤める。現在はスポーツを通じた日常生活の豊かさの向上を目標にしたスポーツクラブ設立に向けて取り組んでいる。