東日本大震災から5年が経った南三陸町。災害公営住宅ではLSA(ライフ・サポート・アドバイザー)とよばれる生活相談員が住民をサポートしています。実際にLSAとして活躍する阿部福美さんにLSAの担う役割を伺いました。
戸倉住宅の「あべちゃんの部屋」
災害公営戸倉住宅は、一戸建て8棟と3棟の集合住宅を合わせて80戸の住宅です。その集会所脇にLSAが常駐する「高齢者相談室」という部屋があります。
「こんにちは」と声をかけると、「はーい」と明るい声。ドアを開けると阿部福美さんと阿部若子さん、お二人の相談員さんのにこやかな笑顔が待っていました。お部屋には大きな窓があり、外の様子を伺えます。コーヒーとお菓子をいただきながらしばしお話を伺いました。この部屋には「高齢者相談室」という名前がついていますが、訪れるのはお年寄りだけではありません。誰でも気軽に訪れてもらいたいという願いも込めて、通称を「あべちゃんの部屋」にしよう、とお二人で考えたそうです。
滞在していた1時間程の間にも、3人の方が訪れました。ある人は町役場からかかってきた電話の内容を確認する目的で、ある人はチラシの詳細を尋ねるために、あるひとはなんとなくおしゃべりをしようと。そんな場になっているのも、お二人の笑顔があるからなのでしょう。以前は仮設住宅の生活支援員だったお二人は、住民の方への目配りも自然と身に付いている様子でした。
便利なものも使いこなすまでは不便なもの
新築の災害公営住宅は電化製品も最新式の設備が整い便利なものが揃っているけれど、使い方がわからなければ、不便なものです。
「電灯がつかない」、「洗濯機から水が出ない」、「お湯が出ない」、「網戸が開かない」など日常のちょっとしたトラブルや不満もLSAのもとに届きます。確認に行ってみれば、元の電気のスイッチは切れているのにリモコンで操作しようとしたり、元の蛇口や栓を閉めていたり、鍵がついているのを知らなかったりということもあったそうです。
以前の生活ではなかった便利なものになかなか慣れない人も多く、何度も何度も繰り返し伝えて、住民の皆さんもやっと便利なものに慣れてきたそうです。何もかもが新しいスタートになるのは、特に高齢の方々には、大変なことでしょう。そんな日常生活の細々したことも相談できるのがLSAなのです。
人がつながるお手伝い
今でこそ、戸倉住宅に住む誰もが知っていて頼りになるLSA。それはこれまで丁寧に信頼を築いてきたからこそできている関係なのでしょう。
「戸倉住宅がオープンした今年の3月から、今まで別々の地域にお住まいだった住民の方々の移転が徐々にはじまりました。住民の引っ越しの期日はバラバラで、私たちも日時がわからなかったので、窓の外をながめつつ、引っ越しの車が来る度に、一軒一軒、ご挨拶に伺いました」と阿部福美さん。
住民の中には、震災前から戸倉にお住まいだった方々も多いので顔見知りの方々も多いけれど、知らない方々も多い状況。さらに、自治会もできていない中、LSAは住民の皆さんをつなぐイベントや“おちゃっこ”を企画し、どの部屋に誰が住んでいるのかも把握しているそうです。毎日9:30からの体操とその後のお茶会、午前、午後、一日二回の散歩は日課になっています。
「楽しい」「おいしい」が育む見守りの目
「LSAの仕事は何ですか?」と尋ねると、「住民のみなさんの元気な姿を確認することです」という答えが返ってきました。どの部屋に誰がお住まいか、把握しているというお二人は、一日一回は必ず全棟巡回して様子をうかがい、あまり見かけない人には声をかけ、声かけをしても出て来てもらえない時には駐車している車で安否を確認することもあるそうです。
毎日の日課の体操では、声を出して歌いながら体を動かすと自然に体が暖かくなり、笑顔があふれてきます。その後は、また楽しい”おちゃっこ”の始まり。冷やしたきゅうりをいただきながら、おしゃべりがはずみます。特に食べ物のことになると止まりません。「ちょと待ってて、持ってくっから」と一人が出て行ったと思ったら、ご自慢の”南蛮三升漬け”を片手にご帰還。これがまたおいしい。
「和子さん、歩いてるね」、「美代子さんも出て来たね」と窓から見える人をよもやま話の間にも見守りの目線が動きます。「楽しい」「おいしい」ところには人が集まり、人が集まると、いない人も気になってくるものなのかもしれません。
もともと地域での見守りができていた土地柄でもあり、「将来的には、住民同士で声かけ、見守りができる方向にできたら」というLSAの願いは、追い風に帆をあげるようなものなのかもしれません。