我妻監督最新作『願いと揺らぎ』仙台公開! 〜12年間の地域記録 記録者から伝える人間に〜(後編)

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震災前の南三陸町戸倉地区波伝谷(はでんや)集落を舞台とした我妻和樹監督作品『波伝谷に生きる人びと』の続編にあたる震災後の様子を映した『願いと揺らぎ』が、4月28日(土)から仙台市内の劇場で公開されます。12年間もの間、地域と一緒に歩み、震災があり苦悩や葛藤を乗り越え、カメラに納めてきた我妻和樹監督の想いに迫る後編です。

12年間、波伝谷と共に歩んで来たからこそ作り上げられた作品

(前編はこちら

2012年4月15日の「お獅子さま」復活とともに撮影は一度中断。しかし、撮影後すぐに編集に取り掛かったわけではありませんでした。約3年間もの月日を費やしたという前作『波伝谷に生きる人びと』の編集や上映活動などで忙しくなり、震災後に撮影した映像は長い間手が付けられなかったそうです。

『波伝谷に生きる人びと』の上映がひと段落し、『願いと揺らぎ』の編集を始めた時には、「お獅子さま」復活からすでに5年近くの月日が経過。波伝谷地区のほとんどの家が再建した状況で、「映画を獅子舞復活時点で終わらせていいものだろうか」という疑問が出てきたそうです。

そうした疑問とともに、「作品の基調になっている主人公の方に本音を聞くことができていないのではないか」という心残りがあったとのことで、その方に一番初めに編集した映画を見てもらい、当時の心境を引き出して、改めてこれまでの歩みを振り返ることで、我妻監督自身の心残りを払拭。『願いと揺らぎ』のラストシーンとして、映画は完成を迎えることになります。

我妻監督は、「2012年時点で終わらせていたら表現することのできなかった時間の厚みがこの作品に描かれている。その意味では作品が生まれ落ちるのに必要な時間だった」と振り返ります。また波伝谷の人たちに完成した作品を見せる時には相当な覚悟を要したそうですが、「今思えば2012年当時の状況でこの作品を見せていたら、余計混乱を招き、人間関係を壊してしまったかもしれない。当事者が冷静に受け止めるためにも時間が必要だった」とも話してくれました。

5年という月日によって地域の人々に心の余裕が生まれ、これまで整理できなかった時間にはじめて意味を与えることができるようになってようやく完成した『願いと揺らぎ』。

他にも震災を題材にした作品はたくさんありますが、他の作品とは決定的に違う点について、我妻監督は「震災を撮ることよりも、元々そこで生きていた人を撮っていたからこそ価値のある作品。その意味では、震災を超えて、もっと普遍的なものが描かれているのではないか」と話します。2005年3月から2017年3月にかけて、震災を経た一つの地域の歩みを12年にわたって撮り続けた我妻監督だからこそ、描けるものがあるのかもしれません。

2017年8月に波伝谷の方々と行った仙台での上映会「波伝谷サーガ ある営みの記録」 (写真提供:我妻和樹監督)

アジア最大規模の映画祭で入選!

12年間の想い、悩み、監督自身の葛藤も描かれているこの『願いと揺らぎ』ですが、昨年山形県で行われたアジア最大規模のドキュメンタリー映画祭の国際部門で、世界112ヵ国、1146本の応募作品の中から、なんと最終選考の15作品に入選したそうです。毎回、日本人監督が1人入選するかどうかの狭き門らしく、昨年は我妻監督とドキュメンタリー映画界の巨匠が並んで20年ぶりに日本人2人が入選しました。この映画祭での入選をきっかけに、ドイツのベルリンなどでも映画が上映されることになりました。

2017年10月に開かれた「山形国際ドキュメンタリー映画祭」での上映の様子 (写真提供:我妻和樹監督)

今になっては大切な人達であり、第2の故郷

今では地域の皆に受け入れられている我妻監督。撮影を初めた頃は、みんなが賛同してくれるわけではなく批判的な人もいたと言います。「どこか自分がやっていることに自信が持てなかった。遠慮しながら撮影をしていた」と撮影を初めた当時を振り返ります。しかし、理解ある地域の人が守ってくれて、居場所を与えてくれたからこそ、映像記録者としての役割を継続することができたそうです。

そして『波伝谷に生きる人びと』が完成して、世の中に広めるようになってからは、より地域の人達とも信頼関係が深まったとのこと。そして『願いと揺らぎ』が完成してからは「記録者としてだけでなく、伝える人間として認めてもらえるようになってきた」と話していました。

地元宮城での上映について尋ねてみると「関心は高いはずだから多くの人にこの作品を見てもらいたい!」と意気込む一方で、「万人受けするような作品ではないかもしれない」と謙遜しているところもあります。それでも「何年か後に価値が再認識されてヒットしたら良いな」と控えめに答えながら、どこか自信が感じられました。

取材の最後に「我妻監督にとって波伝谷とは?」と尋ねてみたところ、「映画の題材というだけではなく、今では大切な人達であり、第2の故郷です!」と胸を張って答えました。

我妻監督が地域と共に歩み、一緒に成長してきた12年間が凝縮した作品『願いと揺らぎ』。仙台公開は4月28日(土)~5月11日(金)の2週間。会場はクリスロード内の仙台セントラルホール。上映期間中は多彩なゲストを招き、トークもあります。仙台での公開後は、横浜・名古屋などでも公開予定です。ぜひこの機会に劇場に足を運んでみてください!

高台移転後の波伝谷(2017年2月撮影) 写真提供:我妻和樹監督

インフォメーション

■『願いと揺らぎ』公式サイト

https://negaitoyuragi.wixsite.com/peacetree

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