南三陸町の交流人口拡大の柱は人がベース 教育旅行・インバウンド

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交流人口の拡大に取り組む南三陸町。その一環として、教育旅行とインバウンドに力を入れています。震災を経験した南三陸町ならではの新しい観光・交流スタイルとは? 産業振興課長の髙橋一清さんに話を聞きました。

震災を経た南三陸の新たな観光資源とは?

―交流人口拡大のための施策にはさまざまなものがあると思いますが、特に力を入れている取り組みについてお聞かせいただけますでしょうか。

交流の要素として大きいのは、観光や教育旅行ですね。震災前、南三陸町には年間110万人もの観光客が訪れていましたが、震災後は30万人に…。ボランティアや復興支援により、一時的には80万人台まで回復しましたが、時間が経つとまた減ってしまいました。これを何とか震災前の数字に戻すのが現在の目標です。ただ、津波による被害で、観光客を受け入れる資源・施設が不足しているのが現状。そこで、交流につながる新しい観光資源を見つけながら、町の産業づくりを進めていこうとしています。

―新しい観光資源とは、具体的にどういったものでしょうか。

ひとつは、もともと南三陸にある豊かな自然の恵みです。海の幸や森林資源といった、南三陸が有する一次生産物の価値を見直し、そこにあらためて光を当てる取り組みを行っています。今年3月、戸倉のカキ養殖場が、ASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)より、環境に配慮した養殖場としての認証を受けました。ASC国際認証の取得は国内で初めてです。また、南三陸町では、FSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)の国際認証も昨年取得しています。同じ自治体が養殖場と森林で国際認証をダブル取得したのは、世界でも例がないとか。このように、地域資源に関心を集めるしかけづくりを行っています。

もうひとつは、震災の語り部や防災教育プログラムなど、震災を受けたことを交流人口拡大につなげていく取り組みです。また、震災によって新たに生まれた交流やご縁も、南三陸町にとって大切な資源。その縁をつなぎ、南三陸町のファンになってもらう仕組みとして作ったのが、「南三陸応縁団」という交流プログラムです。

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観光協会語り部プログラムの様子 提供:南三陸町観光協会

南三陸ならではの教育旅行とインバウンド

―南三陸町では、震災前から教育旅行や「グリーンツーリズム」に力を入れてきたと伺っています。これは震災後も変わらないのでしょうか?

森・里・海の豊かな自然資源を生かした体験プログラムの提供という意味では変わらずですが、“想い”の部分では、震災前と震災後で同じというわけではありません。この町の人たちは、被災して命の危機を経験したことで、身近なところにある大事なものに気づき、今日生きていることの喜びというものを実感しました。震災後は、たとえ同じ内容の体験プログラムでも、伝えようとする想いやメッセージが違います。だからこそ、教育旅行のフィールドとして価値があると思うのです。教育旅行を交流人口拡大のための大切な手段ととらえ、町としても力を入れています。さらに、この教育旅行がベースとなって、最近ではインバウンドにも取り組み始めました。

―インバウンドの取り組みはどのようなものですか?

台湾の高校生を受け入れています。台湾からは多大な義援金をいただき、震災後に交流が深まりました。

町長が感謝の気持ちを伝えに台湾を訪れた際に、台湾で日本への教育旅行に対するニーズがあることがわかり、向こうの先生に来ていただいたうえで、実施が決まりました。台湾の教育旅行協議会と連携して、昨年冬から台南市の学生が教育旅行に訪れています。さらには、日本語を勉強している台湾の大学生のインターンシップも始まりました。

―教育旅行やインバウンドでやって来る学生さんたちにとって、どんな体験が一番印象に残るのでしょうか。

日本の子どもも台湾の学生も、ほとんどが民泊先での交流を挙げますね。一緒に時間を過ごすことで、緊張がほどけて打ち解けていく…。その過程が人を育てるのだと思います。特別なことをしなくても、相手を想うさりげない気遣いが子どもたちの心に響くのでしょう。一期一会、一生に一度のご縁が、彼らにとってかけがえのない思い出になっています。多くのものを失った何もない町でも、人と人との出会いが感動や学びを生むのです。だからこそ、復興に向けて交流につながる施策を積極的に推進しています。

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教育旅行で南三陸を訪れた学生さんたちの様子 提供:南三陸町観光協会

一期一会を継続的な交流に、さらには定住へ

―教育旅行やインバウンドにおいて、カギとなるのは「人」なのですね。

そうですね。もちろん、おいしい食事やさまざまな自然体験などもアピールポイントではあるのですが、やはり人とのふれあいが最も心に残るようです。幸いにも「南三陸はいい人たちばかりだ」という声を多くいただいています。私たちの生き様や、震災を経たことで生まれた新たな価値観に触れてもらうことが、みなさんにとって何かのお役に立てたら…。そしてこの町でよい思い出を作ってもらって、また来てもらいたい。そういった積み重ねが観光の振興にもつながると考えています。震災後は観光や教育旅行を大きく打ち出せませんでしたが、震災から5年が経ち、これからは前向きに取り組んでいきます。住宅事情の問題などもありますが、今後 民泊家庭を徐々に増やしていきたいですね。

―交流人口拡大に向けて、今後の展望をお聞かせください。

交流人口拡大の先にあるのは定住人口を増やすことです。交流によって町の魅力を発信し、定住につなげていこうと。そのためには、住むところや働く場所の問題がありますので、そこをクリアにしていかないといけませんが…。今後は、教育旅行を発展させ、「南三陸に住みたい人」に向けたしくみも考えていくつもりです。まずは南三陸に来て、いろいろ見て、この町のことを知ってください!

―はい! 交流によって南三陸町がどのように変わっていくのか、これからが楽しみです。お話ありがとうございました。

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