南三陸町入谷地区では、正月に欠かせない「しめ縄づくり」が連日行われています。かつてはどこの農家でも作られていたが、時代の流れや環境の変化もあり、知人に委託したり、お店で買ったり…。だからこそ地域の文化を絶やしてはいけないと取り組む方々がいます。
それぞれの氏神様・神棚や玄関に。
一口にしめ縄といっても、下がりと言われる部分の数によって呼び方や用途が異なります。一般的に多いのが7本で、ちょうど神棚の幅に合う長さ。他に5本や3本もありますが、この日仕上げていたのは、「15下げ(7+5+3)」と呼ばれる一間半の長さ(約2.7m)のしめ縄でした。
「昔の家は、玄関が広かったし引き戸だったからね。最近のドア式では飾りにくいよな」作業をしていた山内貞行さんは苦笑いを浮かべます。
「農家が稲わらを編んで氏神様に飾った伝統文化。簡素化される時代だけど、これは遺したいよね」今度はきっぱり言い切りました。
正月を迎えるということ
家を守ってくれる神様(氏神・神棚・釜神など)に対して御礼と豊作を願う風習だともいわれるしめ縄。「これが正しいとか違うとかではなくて、それぞれの家でどのように行ってもよいと思う。昔から聞いているのは、当主が大晦日の午後に入浴して身を清め、神棚のある座敷にゴザを敷いて、秋に収穫し乾燥させておいた稲わらを丁寧に編み込み、和紙と松の枝をはさんで神様に飾るのが一般的。昔はね」
「正月飾りは、15日の小正月前夜に行われるどんと祭に納めるまで飾るのが慣習なんだけど、不幸があった家には出入りできないだとか、様々な不都合もあって7日(松の内)で下ろす家も多くなったな」
年末に大掃除や餅つきなどやりますが、しめ縄は大晦日に飾らないとだめなんですか?と尋ねると「どれが正解か言えないけど、29日や大晦日は嫌うよね。近年は27日か28日がベストかな」
遊びさ来ただけなのに、すっかりあてにされちゃって。
この日、山内さんと一緒に作業していたのが10区に住む佐藤和行さん。三年ほど前、しめ縄づくりをしているとの情報を聞いて、「自分が覚えるためだけに来たのに、毎年、手伝え!と半強制的に誘われる」と笑顔で話します。
最初は丸い形だけしかできなかったけど、今では全てのしめ縄を作れるようになったそうです。山内さんが「和行さんはね、入谷公民館で開催する教室の先生役もこなすんだよ」と言うと、すかさず「先生なんてできない。ただ蕎麦を食いに行くだけだ」と豪快に笑います。
工房は大切な場所
最長の七五三さげの他、七さげ、五さげ、三さげ、たが(丸い形)そしてごぼう(一本物)が作られており、この6種類のしめ縄を作る山内貞行さんと佐藤和行さんは、「七五三(なごみ)の会」のメンバー。
「七五三の会は作り専門、自宅で黙々と作っている先輩もいる。売るのは入谷の産直や歌津の産直」
文化継承そして住民交流も見据えながら日々活動しているのが七五三の会だと胸を張ります。
そして、暖房もない広い空間こそがしめ縄づくり工房。山内さんの学び舎(母校)である旧林際小学校体育館です。「ここでは、入谷打ち囃子の稽古もやっている。だいぶ老朽化しているけど懐かしいし大事な場所なんだ。校歌もそうだし遺しておきたい文化や建物がいっぱいあるんだよね」作業の手を休め、しみじみ語ってくれました。