自然とともに、寄り添う暮らしを。/中島綾子さん

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自然や健康に配慮した食べものや飲み物、地の素材を生かした手作りの工芸品、子どもたちがからだを使って自由に遊びまわれる遊び場に、心地よい音楽や趣向を凝らしたワークショップなど丸一日楽しめるイベントが開催される。春から夏に移ろう、彩り豊かな南三陸の里山で、この土地の恵みをギュッと凝縮した「ひころマルシェ」。2018年から同マルシェの実行委員長を務めている中島綾子さんに、開催に向けた想いを聞きました。

「みんな」で作るマルシェ

今や入谷を象徴するイベントのひとつになっているひころマルシェ。そのスタートは2015年秋のこと。入谷地区の民家の縁側を使ったアートイベント「テクテクめぐる 縁側アート in 南三陸」のサイドイベントとして地元の出店者が中心の9店舗から始まった。

第1回ひころマルシェのようす(写真提供:ひころマルシェ実行委員会)

翌年2016年から春と秋の年に2回の開催を続け、今回2019年の初夏で8回目となる。

中島さんが初めてひころマルシェに参加したのは、2017年初夏に開催された第2回目のときだった。「当時働いていた農業法人で作っていたトマトを、マルシェで出店したのがはじまり」と話す中島さん。「とにかく子どもたちの笑い声がたくさんあって、空気がとてもゆっくりと流れている、なんて心地よい空間なんだろう」と初めて訪れたマルシェの印象を振り返る。

ひころの里という場の雰囲気とそこに集う人々によってもたらされる「ピースフル」な雰囲気を感じていたのは中島さんだけではなかった。初夏と秋の年2回開催を継続しながら、回を重ねるごとに、口コミで出店者も参加者も増え続け、今回は過去最多の55ブースが出店予定となっている。

「マルシェを中心に仲間が増えていく感じ。そして、実行委員会のみんなはもちろん、出店者のみなさんや、お客さんまでも、自分でできることでマルシェに関わってくれている、“みんなで作るマルシェ”となっているんです」と中島さんはその様子を話す。

暮らしのなかで実践できる「オーガニック」

ひころマルシェは「おいしい、たのしい、すこやかな暮らしをこの土地で」というミッションのもと、一貫して「オーガニック志向」のマルシェを目指している。

「“オーガニック”というと、どうしても“無農薬野菜”といったイメージが強いのですが、食べものだけじゃなくて、ゴミのことであったり、環境のことであったり、この町が持続可能な町になるような“考え方”を広げていければと思っています。会場では、出店者のみなさんと協力して、プラスチックやビニールを使わず軽包装での商品の受け渡しや、リサイクル袋、リユース食器や間伐材の器を使用するなど、ひころマルシェから出るゴミをゼロにしたいというゴミゼロチャレンジを実施しています」

世界的に問題になっているプラスチックゴミ。しかし、報道や書籍等の情報ではどうしても遠いところの出来事に感じてしまいがちですが、こうした取り組みに自然と参加することで少しでも身近に感じてもらうことが狙いだという。

「ごみの分別や、環境に配慮した野菜、自分が普段使う食器など、小さなことでもよいので、暮らしのなかで実践できることに、マルシェを通じて気付けてもらえたらいいなと思っています」

間伐材食器や使い捨て箸は、マルシェ内でロケットストーブの燃料になる (写真提供:ひころマルシェ実行委員会)

「小商い」にチャレンジできる場に

さらに実行委員会では「大きな事業者だけでなく、小商いを始めたばかりの人もチャレンジできる場にしたい」という想いも強く持っているという。

そのため事務局では出店に必要な許可や手順など出店者の相談役を担い、初めてでも安心して出店できるよう意識したり、マルシェ内ではこどもが自由に遊びまわれる遊び場や、みんなが子どもと遊んでくれるなど、子連れでも安心して出店できるような環境になっている。

「お客さんとしてマルシェに来てくれていた方が出店してみたり。若いお母さんや主婦の出店者も多くなっています。イベント出店は初めて挑戦します、という方もいらっしゃいますね」と中島さんは声を弾ませる。

(写真提供:ひころマルシェ実行委員会)
マルシェ内には子どもが自由に遊べる環境が整っている(写真提供:ひころマルシェ実行委員会)

また、南三陸のみならず、登米市や気仙沼市など近隣市町村、仙台などの都市圏、岩手や青森、東京など県をまたいだ遠方からも出店する人がいることで多様な出店者が集う場に。マルシェをきっかけに出店者同士のつながりが育まれる場ともなっている。

「出店者同士でつながってほかのイベントにも誘ってもらったり、マルシェでの出会いから仙台の店舗に卸先として販路が開拓されたり、『商売の幅が広がった』という声もいただくことがあります。本当にすごく小さくですが、町の経済に少しでも貢献できているのかなと思ってうれしくなりますよね」

(写真提供:ひころマルシェ実行委員会)

この町で気付いた「豊かさ」の意味

2014年2月に東京から南三陸町に移住した中島さん。都会の真ん中でバリバリとキャリアを積み重ねていたが、この町に移住すると、四季折々に変化を見せる海、里、森といった自然、そして力強く生きる人の魅力に取りつかれた。

「何かしたい」と思って町に来たが、今では「町が大好きで住んでいる」と話し、「人も好きだし、自然も好きだし、毎日ワクワクしている」と目を細める。

「東京にいるときは、お金が価値基準の中心だったけど、こっちでは全然そんなことない。都会にはない“豊かさ”を実感しているんです。そしてこの豊かさを守っているのは人で、その人の想いとか暮らしぶりを見ていると本当に尊敬するんです。自分もその一員になれたらいいなって思っています」

日々、季節の移り変わりを体感しながら、自然とともに、自然に寄り添った暮らしを送る。季節のものを食べて、季節の行事に参加して、あまりせかせかせずにゆっくりとした南三陸時間を過ごしたい――。

中島さんの語った夢は、「ひころマルシェ」という一日に、きっと具現化されているのだろう。

(写真提供:ひころマルシェ実行委員会)

ひころマルシェ2019初夏

2019年6月9日(日)
10:00~15:00
ひころの里野外会場 (南三陸町入谷字桜沢422)

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