津波で被害を受けた飲食店「食楽 しお彩」。約5年半、南三陸町内の仮設住宅を中心に、お惣菜の移動販売を行ってきました。「地元の方々に喜んでもらいたい」という想いを胸に、南三陸さんさん商店街に出店します。
震災後、揚げ物と総菜の移動販売で地元の人々を支えた
2017年3月3日に本設としてオープンする「南三陸さんさん商店街」。新規出店する飲食店のうち、和食の目玉として注目されているのが「食楽 しお彩」です。しお彩はかつて、志津川の中心部にありました。子どもの頃から料理が好きだった後藤一美さんが、2007年11月、地元の食材を使った海鮮丼がメインのお店をオープン。地元の人たちに人気のあるお店でしたが、東日本大震災の津波で被害を受け、お店は解体されることに…。失意の後藤さんでしたが、避難所生活のなかで、住民から「早くしお彩の料理が食べたい」という声をもらったことで、「自分の料理でみんなを勇気づけたい、幸せにしたい」と奮起。2011年7月28日に、揚げ物や総菜の移動販売を開始しました。
販売は1日1か所限定で、夕方4時から6時半の間。とんかつ、からあげ、コロッケなど8〜10種類の揚げ物と、お惣菜8〜10種類が並びます。揚げ物はその場で揚げるので、熱々できたて。仮設住宅はキッチンスペースが十分ではなかったり、ご近所に気兼ねして揚げ物がしにくかったりという事情があったので、しお彩の移動販売は大人気に。後藤さんが作る移動販売カレンダーをチェックして、時間になると人々が集まってきます。「料理を売るだけでなく、お客さんとのコミュニケーションも楽しみでした」と後藤さんは振り返ります。
「最初の3年間は、とにかく地元のお客さんのためにがんばろうと決めて、町内全域を回っていました。3年目以降は、夏祭りや福興市などにも参加して、町外のお客さんにも元気にがんばっている姿をアピールしましたね」と後藤さん。本設商店街への出店は、移動販売を始めて2年後には決めていたそうです。「金銭的なことで二の足を踏みましたが、地元のお客さんに支えてもらってここまでこられたので、自分に火がつきました。移動販売を5年以上続けたことが、新しいお店へのプラスになるという手ごたえもありました」。新店舗オープンに向け、2016年12月に移動販売を終了しました。
南三陸の名物に! 目玉メニューは「たこつぼラーメン」
新しいお店には、南三陸キラキラ丼を中心にしながら、志津川名物のたこを使ったメニューが登場するとのこと! 「南三陸はたこで知られていますが、意外にたこ料理を出すお店がありません。また、本設商店街には麺屋さんが1軒も入らないと聞いたので、麺ものを何か出したいと思いました。そこで考えたのが『たこつぼラーメン』です。塩系のだしに、たこの切り身やつみれを入れて…。かつて志津川ではたこつぼで漁をしていたので、たこつぼに見立てた器で出します。たこラーメンは全国的にもめずらしいので、南三陸のご当地ラーメンとして観光客を呼び込みたいですね」と後藤さんは意気込みます。
たこつぼラーメンとキラキラ丼は昼のみで、夜は定食などを中心に地元のお客さん向けのメニューを充実させる予定です。移動販売で人気だったみそカツや、鶏の黒酢和えなども登場するとか。「昼は観光客やビジネス関係の方々に来ていただき、夜は地元のお客さんにゆっくり飲んで楽しんでもらいたいですね。宴会料理も出します。ありがたいことに、しお彩の料理を楽しみにしてくださっているお客さんが大勢いらっしゃいますので、その方たちの憩いの場になればと思います」と後藤さん。
津波を生き延びた包丁を手に、商店街を盛り上げていく
後藤さんには、大切にしている1本の包丁があります。「津波でぐちゃぐちゃになってしまった前の店を解体するときに、奇跡的に包丁が1本だけ見つかったんです。料理人にとって大事な包丁が出てきて、ほんとうにうれしかった。『またこの包丁で料理を作ってほしい』と言われているようで、勇気づけられましたね。新しいお店がオープンしたら使おうと思って、ずっと取ってあります」。その包丁の出番ももうすぐです。
「新しい商店街の飲食店経営者では、私がいちばん年上になります。だからというわけではありませんが、気を引き締めて、商店街を盛り上げていきたい。商店街を継続していくためには、みんなで力を合わせることが大切です。お互いに助け合いながら、がんばっていきます!」と、後藤さんは抱負を語ってくれました。
インフォメーション
食楽 しお彩
住所:宮城県本吉郡南三陸町志津川字五日町51
電話:0226-46-1087
営業時間:11~14時、17~22時(料理LO21時、ドリンクLO21時30分)
定休日:毎週火曜日 ※月曜はランチのみ営業