南三陸に生きる⼈を巡り、⼀巡りしていく連載企画「南三陸ひとめぐり」。第7弾は、震災での苦難を乗り越え、南三陸町でノルディックウォーキングやダンベル体操を企画している阿部代子さんに迫ります。
大切な人、故郷を飲み込んだ大津波
2011年3月11日、東日本大震災による大津波。それは、阿部代子さんの大切な人、そして生まれ育った故郷を丸ごと飲み込んでいった。
当時、病気を患っていた代子さん。病気の治療にも効果的と聞いていたノルディックウォーキングの講習を4月から受けようとしていた矢先のことだった。そして、体力をつけることを勧めてくれた最愛の旦那さんを失った。
「あの時期のことは正直あまり覚えていないんです。ただただ呆然と、いたずらに毎日が過ぎていきました」と代子さんは話す。
しばらくして、ノルディックウォーキングのことがふと彼女の頭をよぎった。
「大切な人が失われた町、荒廃してしまった生まれ育った町から逃げ出したい」と、逃げ場所を求めるように、仙台で行われていた講習に足を運んだ。
「自分のことを知らない人のなかにいたかったんです。町にいたら、よくも悪くもみんな知り合い。そのことに少し疲れてしまっていたんだと思います」(代子さん)
そのとき出会い、今もお世話になっているという講師の武田陽子さんは代子さんとの最初の出会いを鮮明に覚えている。
「何をするにも力が入っていない様子で。地に足がついていない、ふわっとした状態とはこのことをいうんだって。今の明るい様子はまったく想像できなかったんです」
体の健康が心に彩りを取り戻す
全身を使った有酸素運動のノルディックウォーキング。公園や山あいなど自然豊かな場所を仲間との会話を楽しみながら歩く時間。自分の体力に無理なく続けられる運動。その魅力に次第に引き込まれていった。
ひとつひとつの筋肉を意識して、ゆっくりと、動き出すその運動は、全身の眠っていた筋肉を覚めさせるような感覚だった。
「いろんなところに行って、歩いて。全国各地に仲間ができて。その出会いによって、前向きになれていきました」(代子さん)
「やっぱり南三陸はいい町だ!」
しばらくすると、志津川自然の家や歌津公民館、入谷公民館といった南三陸町内の施設から「ノルディックウォーキングをやってみたい」という声が代子さんのもとに届いた。その背景には長引く仮設住宅での生活による運動不足などの問題もあった。代子さんは迷わず引き受けた。それは、逃げ出した町への彼女なりの恩返しだった。そして、ノルディックウォーキングを通して、生まれ育った故郷のよさをまた再発見した。
「山と海が近くて、自然にあふれている。歩きながら実感できる山あいの稜線の美しさはすばらしい。頭では理解していた南三陸のよさを、再認識しました」
ひとりひとりの体の健康は、町の元気の源に!
代子さんは現在ノルディックウォーキングのほかにも、より気軽に体力づくりができるダンベル体操も月に1回のペースで企画している。
まずは自分の体力作り。それが自身の健康につながる。体が健康だと、心も充実する。そうした人たちが集まれば、楽しい空間になり、元気な町になる。自分自身の体験によってそのことに気づいた。
「私が自分のためだけにはじめたことが、いいことだらけだったことに気づいたんです。私自身、高齢者3名を抱えながら生活している現状。これからどんどん高齢になるこの町で、私がきっかけを作って、元気な町になっていったらいいなと思って活動をしています」
小難しい政策や、理論ではない。自分自身、そしてごくごく身近な人の健康。それが伝播していく。静かな水面に、代子さんが投じた小さな石。その波紋がゆっくりと、でも確かに広がっている。
インフォメーション
ダンベル体操は月に1回開催!次回は12月15日(木)第一部 13:45〜15:15、第二部 18:45〜20:15南三陸ポータルセンターにて開催しています。
詳細・ノルディックウォーキングの実施情報は阿部代子さんのFacebookなどで確認ください。
阿部代子さんFacebook:https://www.facebook.com/shiroko.abe?fref=ts