小さいころから大好きな地元の魅力を全国へ/佐藤可奈子さん

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南三陸に生きる⼈を巡り、⼀巡りしていく連載企画「南三陸ひとめぐり」。第23弾は今年、南三陸町に戻り観光協会で大好きな地元の魅力を発信する佐藤可奈子さん。小さいときから、これまでの歩みを振り返ります。

小さいときから、町が大好きだった

春の訪れとともに、町には全国各地からの観光客が訪れる。そんな観光客の窓口となる南三陸町観光協会に、ひときわ元気のよい声が響いている。

南三陸町志津川出身の佐藤可奈子さん、21歳だ。2018年1月より、南三陸町観光協会で勤め始め、現在はアンテナショップやイベントなどで南三陸町の物品をPRする物販担当として、そして毎月月末に開催されている福興市の担当として、持ち前の明るさと人懐っこい性格を生かして活躍している。

南三陸町志津川荒砥地区がふるさと。小さい頃から地元の海や里で遊ぶことが大好きで、将来もこの町で暮らしていくことを疑わなかった。「都会に行きたいといった憧れは小さいときからまったくありませんでした。母親が働いていた化粧品店で遊んだり、松原公園で体を動かしたり、おばあちゃんといっしょにアサリをとったり、地元で楽しむことが好きだったんです」

なかでも強く印象に残っているのが、ジュニアリーダーの開催するイベントに参加したことだという。「小学生だったころ、ふるさと学習会というのがあって、ジュニアリーダーのお兄ちゃん、お姉ちゃんといっしょに2泊3日で地域のことを学ぶ機会があったんです。イカダ作りをしたり、野鳥の森に行って自然や生き物と触れ合う機会も多かった。そうしたことからこの町のことが好きになっていったんだと思います」

大好きな町の被災を直に受け止められず

そんな大好きだった町が一変した大震災が起こったのは、彼女が中学1年生のとき。志津川中学校で被災した。体育館に身を寄せていた彼女は、町が津波で飲み込まれていく光景を直接目にすることはなかった。「今になって思えば、体育館にいたということはきっと周りの大人達の配慮だったんだと思う」と話す。

「翌朝見た町並みは、まったく馴染みのない景色で。ドラマみたいで、受け止めきれず、まったく現実味がなかった。なにを失ったのかもわかっていなかったのでしょうね」

そんな状況のなか、佐藤さんは自分のできることを探していた。佐藤さんの実家のもっとも近くの避難所は南三陸町総合体育館ベイサイドアリーナ。そこは南三陸町最大の避難所となっていた。中学に入学したと同時にジュニアリーダーとして活動していた彼女は、時間があればその避難所に通いながらベイサイドアリーナに身を寄せていた子どもたちの遊び相手となっていた。

「支援物資で送られてきた縄跳びを使ってみんなで遊んだり、家にあった漫画本を持ってきたり、トランプを持っていったり。子どもには好かれやすい性格だったんですかね。ちょっとした時間に遊んでいるうちに、避難所の子どもネットワークがいつの間にか出来上がっていっていたんですよ」。

中学入学と同時に始めたジュニアリーダーの活動は高校卒業まで続けた

「町のために」奮闘する大人に触発されて

震災からわずか1カ月ほど。まだまだ日常生活には程遠い状況のなか、商人たちが立ち上がり開催された「福興市」。そこに佐藤さんは足を運んだ。

すると、「ジュニアリーダーの活動のときにお世話になっていた顔なじみの役場職員の方から『なにぼーっとしているんだ、いいから手伝え!』と怒られたんですよ。私はただぶらりと覗きに行っただけだったのに」と笑う。「でも、こんな大変な状況なのに『町のために』とか、『町をなんとか盛り上げよう』と頑張っている大人たちの姿はとてもかっこよくて、とても刺激になった」と、この経験が佐藤さんがこの町でなにかをしたいという想いを抱くきっかけの一つとなっていく。

地元志津川高校に進学し、COMという団体に所属しながら仲間とともに町の魅力を伝えていく活動も実施。「南三陸の中高生向けに町の隠れたスポットを紹介しようとリーフレットを作成したんです。入谷にある巨石はそのときに初めて知ったり、神割崎も伝説があるってことを初めて知りました。『この町、思ったより楽しいぞ』って友達を話していた記憶がありますね」。多くの人と関わりあいながらこの町の新たな魅力も知った高校時代は彼女にとって貴重な時間となった。

観光協会職員として町の魅力を全国へ

高校卒業後、一度は町外で就職したものの、今年から地元の一般社団法人南三陸町観光協会に活躍の場を移した。もともとこの町に暮らし、成長してきた彼女は知り合いも多い。しかし、そんな顔見知りの人たちと仕事として接することができるのが「すごく新鮮」と彼女は話す。「『あ~どこどこの娘だっちゃ。こんなに立派に大きくなって』って言ってくれて。そして二言目には「『戻ってきてくれてうれしい』と口を揃えて言ってくれる。そのことが本当にうれしいんです」

小さいときからなんとなく大好きだったというこの町。観光協会に身を置いて活動をしていくうちに、実感してきたことがあるという。

それは「ここならではの小さなネットワークが無数に存在しているということ。そして、その人と人とが関わりあいを持ちながら、さまざまなアクションが起きている町だということ。まだまだ知らない魅力がたくさんあふれている町なんだ」と、新しい発見の毎日を過ごしている。

昨年、晴れて成人式を迎えた彼女。大学に進学した同級生たちは、そろそろ就職活動を迎える頃合いだ。地元に戻り活躍する彼女のもとに「南三陸に戻って働ける場所ってあるかな?」という連絡がくることもある。

「きっと、同年代で今は町の外に出ている人でも、町に愛着があったり、町で働きたいという想いがある人も多いはず」と話す彼女。

きっと彼女自身が架け橋となって、若い人が南三陸に戻ってくるきっかけとなることがあるだろう。この町を今は離れている同級生に向けて、全国にいる南三陸ファンに向けて、そしてまだ南三陸を訪れたことのない多くの人々へ。「大好きな町」の魅力を全国へ。そんな若者の想いがこの町を創っていく。

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