「移住してよかった!」と心底思える町です/中村悦子さん

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南三陸に生きる⼈を巡り、⼀巡りしていく連載企画「南三陸ひとめぐり」。第9弾は、地域おこし協力隊として神奈川県から移住をしてきた中村悦子さん。仕事、暮らしなど、移住ライフの本音に迫りました。

縁もゆかりもなかった南三陸へ

町内はもちろん、アンテナショップでもお土産や贈答品としても大好評の缶詰がある。『タコのアヒージョ』や『カキの醤油佃煮』など海の恵みがギュッと詰まった人気シリーズを製造するのは、地元のお母さんで構成された「南三陸おふくろの味研究会」。その事務局を務めるのが中村悦子さんだ。

中村さんは神奈川県藤沢市出身。南三陸はおろか、東北に縁もゆかりもない生活を送っていた。そんな中村さんが初めて東北を意識したのは2011年の3月11日だった。

「そのとき、東京で入院をしていたのですが、震災の映像をテレビで眺めることしかできず、何もできない自分にもどかしい思いを抱いていました」

友人たちがボランティア活動をしていたこともあり「いつかは被災地に行ってみたい」と思っていたという中村さん。

「2014年10月にボランティアで初めて南三陸に来ました。そこで出会った海で生きる人たちに魅了され、彼らの力になりたいという一心で、繰り返しボランティアに訪れていたんです」

何度か南三陸を訪れるうちに、「移住」ということを意識するようになった。人材会社やIT業界などさまざまな業界を渡り歩いてきた中村さん。ハードな日々を送るかなかで「このままでいいのか」という思いも抱いていた。

「東京で働いていたけれど、田舎暮らしへの憧れもありました。さらに、何度も南三陸に訪れるうちにどんどん人との絆が深まっていって、もっと寄り添った活動がしたいと思うようになったんです。ちょうどタイミングもよかったので、移住の決断に躊躇はありませんでした」

「ボランティアをしにきたのに、逆に勇気づけられていた」と毎月のように足を運んだ

地域おこし協力隊の一期生として缶詰工房で奮闘!

そして昨年から南三陸町で導入された「地域おこし協力隊」の制度を使い、2016年4月に移住した。

「地域おこし協力隊」とは、地方自治体が都市住民を受け入れ、「地域協力活動」に従事してもらい、定住を図りながら、地域の活性化につなげる制度。南三陸町では2016年度に第一期生として3名の受け入れを実施。新規農業振興や地域資源を活用した事業化、そして教育旅行受入れ拡大のための民泊推進委員として活動を行っている。

第一期生として活躍する中村さんは「おふくろの味研究会」の缶詰工房で、南三陸の魚介を活かした新商品の開発と製造、販売に取り組んでいる。しかし、移住をしてきた初めての土地で、地元の方々、しかも60代から70代という先輩方と仕事をともにすることには苦労も多かったという。

「信頼関係を構築するのに時間がかかってしまい、お母さんたちのまとまりもなかったんです。ですが、缶詰も売り上げが伸びてきたり、細かいことでも情報共有したりすることで、まとまりがでてきました」

高級感のあるパッケージはお土産のほか贈答品にも好評だ

不安だったのは車の運転くらい!

「移住」という大きな決断の裏には、不安や葛藤というイメージがつきものだ。しかし、何度もボランティアで南三陸に通い、知り合いも増え、生活の勝手も知っていた中村さんは、移住にあたって大きな不安もなかったという。

「唯一不安だったのは車の運転。そもそも車の免許を持っていなかったので…笑 会社を退職して、翌日から教習所に通って免許を取得しました」と笑う。しかし運転に慣れるのに時間はかからなかった。

「あんなに不安だった運転も、今では大好きに。休日に温泉や道の駅へのドライブが息抜きになっています。山もあって、海もある。運転しながら見える外の景色が本当にきれいなんです」

移住で大切なのは人とのつながりを大事にできるか

仕事、そしてプライベートでも移住ライフを満喫している中村さん。そんな中村さんに南三陸のよいところを尋ねると、

「何よりも人がすごくあたたかい。漁師の友人から食材をゆずってもらえたり、畑をやっている人からはたくさんの野菜をもらったり。自分が困ったときは、進んで助けてくれる。だからとっても暮らしやすい。海も山もあって、こんなに恵まれているところはないですよね」と目を細める。

だからこそ、「地域の人と馴染める人、地域の人に可愛がってもらえるような人に、これからも移住をして来てほしいですね。それが移住してからうまくいくかどうかの秘訣だと思います」

南三陸は、大型ショッピングモールや娯楽施設もなければ、鉄道も通っておらず、決して便利な場所ではない。そんな町だからこそ、色濃く残っている人と人のつながり。それを大事にしていくことが、この町で充実した移住ライフを送る鍵になるのかもしれない。

移住者と地元の人が重なり合って生まれるパワー

人口流出に悩み、高齢化がすすむ南三陸町。しかし、とくに震災後は、南三陸の風土・文化・気質に惚れて中村さんのように都市部から移住をするものも多い。外からやってきたからこそ気付く、南三陸の豊かさがある。そこにこれまで地元の人が培ってきたものが重なり、化学変化がおきる。

移住をしてまもなく1年がたつ中村さんもその舞台にたつひとりだ。地域おこし協力隊としての任期は残り2年。

「南三陸のおいしい魚介をより多くの人に知ってもらいたい。そのためには製造も、営業も、広報もより軌道にのせていかなくてはいけないですね。そして、地元の若い人が『ここで働きたい』と思える場にしていくことが目標です」と意気込む。さらに中村さんは、こう続けた。

「南三陸に残って、ここで暮らしていきたいです。それくらいいい町ですから」

この言葉に、移住の充実さがにじみ出ていた。

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