今日は、農家の一年の仕事始めの日。
この地域では「農はだて」と呼ぶ。
「はだて」とはこの地域の言葉で「はじめ」という意味。
「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくね」
囲炉裏に灯った赤い火に導かれるように、そこには自然と輪ができる。
一年のはじまり。
まず行われるのは、その年の米の作付けの占いだ。
昨年末について、うら返した臼の下で2週間ほど眠っていた3つの餅。
その一つひとつを裏返していく。
1つ目のもちは「早稲(わせ)」。2つ目は「中稲(なかて)」。3つ目は「晩稲(おくて)」。そこに米粒がついていればいるほど豊作とのこと。
今年の稲作の占いの結果、最も豊作とされるのは「晩稲」。ここから、一年の農作業は始まっていく。
そして行われるのが、「わらない」だ。
昨年手塩にかけて育てた、稲。それを支えていたわらを活用する。
乾燥したわらを槌で叩く、「わら打ち」。
打つことによって加工しやすいように、やわらかくなる。
わら縄を使用する機会は今ではぐっと減ってしまった。
しかし、この土地では、かつて、草履もむしろも、米俵も。わら縄は生活の必需品だった。
冬仕事といえば、わらない。この一年間で使用するわら縄を冬の間にすべてこしらえていたという。
「子どものときは朝早くから夜までお手伝いしたっちゃな」
「今は年に1回でも、身体が覚えてるんだね」
そう話しながら手際よく、縄をなっていく。
2つのわら束を両手でねじりながら、かみ合わせていく。
ねじりが戻ろうとする力で、2つのわらが絡み合い、しっかりとした縄になる。
モノが十分になかった時代から、手仕事で暮らしを支えてきた。
発展の昭和、激動の平成を生き抜いてきたその手。
ただひたすらに縄をなうその手は、彼女たちの人生の深さを表している。
昨年、農家さんが手塩にかけて育てたお米。
そのお米は今、わたしたちの食を支えてくれている。
そして、稲わらは生活の道具となって暮らしを支える。
無駄なものはなに一つない。
そんなことを、この正月行事は今に伝えているのかもしれない。
今年も豊作となりますように――。
寒風がしみる帰り道、この一年の豊饒を祈っていた。