心地よい図書館に向けて、若き司書の挑戦。/小林朱里さん

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南三陸に生きる人を巡り、一巡りしていく連載企画「南三陸ひとめぐり」。第32弾は、この春再建した南三陸町図書館。町外出身ながら唯一の司書として新たな図書館の空間作りに挑む小林朱里さんの想いに迫りました。

見知らぬ町で「憧れの司書」キャリアをスタート

今年4月に開所した南三陸町図書館。自然光がたっぷりと差し込む館内は明るく開放的で、本を包む南三陸杉のさわやかな香りが、よりいっそうの心地よさをもたらす。

「小さいときから図書室や図書館という空間が大好きだったんです」と話すのは、南三陸町図書館で唯一の司書として活躍する小林朱里さん。秋田県能代市出身で、山形県の短大で資格を取得後、見知らぬ町で司書キャリアをスタートさせた。

「小学校の時から高校までずっと図書委員しかやったことないんですよ」と笑う小林さん。本が大好きだからこそ、図書委員をやっていたのかと思いきや、「もちろん、本を読むことも好きだったのですが、それ以上に図書館や図書室という空間が好きだったんです。本を読まなくても、友だちみんなで気軽に集まって楽しめる場所が図書館でした。みんなで折り紙を折ったり、ただ楽しいから遊びに行っていたという感じでしたね」

中学校のとき図書室にいた司書と話しをするなかで、司書業務に興味をもったという。

進学した山形県の米沢女子短期大学で司書資格を取得すると、タイミングよく宮城県南三陸町の図書館司書の正規職員の募集告示が出ていた。

「司書採用自体が珍しいこと。まして自分が卒業するタイミングで出ることなんてまれ。行ったことのない土地だったけれど、迷いはなかった」と振り返る。

南三陸へ初めて訪れたのは、二次試験のとき。東北育ちではあったが、東日本大震災の被災地を訪れたこと自体初めてだった彼女にとって、その光景は少なからず衝撃的だったというが「中学生以来の夢だった司書」への想いに揺るぎはなかった。

中高生も興味をもてるような仕掛けを

南三陸町図書館は東日本大震災で被災。2013年1月から、ベイサイドアリーナ脇に建てられた町オーストラリア友好学習館(愛称「コアラ館」)で運用されてきた。

小林さんが司書として着任したのは平成29年度。コアラ館の運用開始から4年が経過していたが、「図書館の利用者を増やそうとしても、そもそも図書館が新しくコアラ館で運用されていることが知られていなかったり、蔵書も置くスペースが限られるなど、難しさを感じることも多く、勉強不足も感じることも多かったです」と振り返る。

しかし、この春にオープンした生涯学習センターによって「図書館」のもつ可能性は大きく広がった。

「新しい図書館の設立に携われることは、人生に一度あるかないか。ほかのスタッフと一緒に図面とにらめっこしながら、どんな配置にしようか、どんな導線にしようかと頭を悩ませながら開館を迎えました」

これまでの図書館とは一線を画すような、ほかにはない設計。「まるで迷路のような、複雑な造りを生かして、ワクワクできるような図書館になれたらいいなと思っています。目的の本がある棚まで一直線にたどり着けないのですが、その分、普段目に入らないような本も目に入ったり、手に取ってもらったり、本とのそういった偶然の出会いも楽しんでもらえるのではないかなと思っています」

生涯学習センターが再建されたのは、志津川地区の中央団地に隣接するエリア。志津川小学校や志津川中学校からも近く、家族世帯が多く集まる団地だ。「コアラ館」のときには、近隣の高齢者が利用者の中心だったそうだが、場所が変わったことで利用者層にも大きな変化が見られた。

「学校も近くなったので、小中学生が多く来てくれるようになりました。児童書の充実はもちろん、中高生で楽しめるようなティーンズコーナーを新たに設け、興味をもってもらうような仕掛けをしたり、夏休みには工作資料展、読書感想文向けの書籍の充実などの企画をしています」

居心地のよい空間に向けて

図書館司書にとっていちばん大事なことを聞いてみると「レファレンスだと思います」と話す小林さん。図書館利用者の「こんな本はある?」「これについて調べたいのですが」といった要望に、蔵書の中から最適な本や資料を回答し、解決への道標を示すのがレファレンス。

「学生時代にももちろん学習はしたのですが、地域性がとくに必要とされるので…。『この土地にクリスチャンはいたの?』とか『地名の由来について』など尋ねられることもありますが、やっぱり難しいことが多いですね。まだまだ勉強しないといけないことが多くあります」と話す。

目指す図書館は小林さん自身が子どものころから好きだったという、気軽に集える居心地のよい空間。

「本を読まなくても、気軽にみんなで集まれるような居心地のよい空間にしていきたい」と意気込みを語る。

町民の拠り所となるような施設を目指して、若き司書の挑戦は始まったばかりだ。

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