志津川湾の魅力発信へ。新たな仲間が加入!/福岡将之さん

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南三陸町にぐるっと抱かれている志津川湾。この秋に控えているラムサール条約の登録に向けて、基盤整備を一層加速するべく、この春から南三陸ネイチャーセンター準備室に加わった南三陸町農林水産課所属の任期付職員の福岡将之さんに迫ります。

海の楽しさを知り、東京海洋大学へ

東京生まれ東京育ちという福岡さんだが、海好きの両親に連れられて、小さいときから海に親しんできた。そうした影響もあってか子どものときから水辺の生き物に興味があったという福岡さん。将来は漠然と自然に関わる仕事ができたらな、という夢を描いていた。さらに、研究や実験など外で活動することが好きだったことから、自然と、高校卒業にあたっての進学先は東京海洋大学が絞られていった。

「入学してからも、漠然と、生き物の調査をできたらな、という思いだったんですけど、魚系は研究対象としても人気があって、既に知識も豊富な人が多くて、自分のような軽いノリじゃとてもついていけないな、と。そんなときに出会ったのが海藻でした」と笑う。

福岡さんが目をつけたのが、藍藻(らんそう)という藻類の一種。藍藻とは、水槽に出てしまう緑色のふわふわしたものも、池や沼などの淡水でも、海水でも、さらにはコンクリートまでどこにでもいる細菌の一種だという。

「生物の進化の課程で取り残されたようないちばん原始的なものなんですよね。私たちが暮らす自然の中の、どんな環境でも生育していて、さらに私たちは本当によく目にしているものなのに研究が全然進んでいないニッチな分野だったんです。こんな原始的なものが、大自然の中でちゃんと生きているんだって実感できるし、旅行していてもどこでも出会うことができるのが楽しいんですよね」とまるで友達かのように楽しそうに話す福岡さんの姿が印象的だ。

福岡さんが研究を進めている藍藻の一種

ネイチャーセンターの再建へ、南三陸へ移住

そんな福岡さんは、大学院博士課程2年を休学して、縁もゆかりもなかった宮城県南三陸町で南三陸町農林水産課所属の任期付職員として働くことを決意した。そのミッションを一言で表すならば、「ネイチャーセンターの再建」をバックアップすること。

ネイチャーセンターとは、震災以前戸倉地区にあった「南三陸町自然環境活用センター」の別名。地域密着型の研究や「海藻おしば講座」「サイエンスキャンプ」などの教育プログラム、さらに「エコツアーマスター、シーカヤック指導者養成」などの人材育成も行われていた。しかし、2011年の東日本大震災で被災。子どもも大人も、町の豊かな自然環境・生きものに触れることのできたこの施設の再興を、町民有志とともに目指してきた。

「津波によって過去の標本データなども流出してしまっています。それらが手をつけられていないまま残っていることも多いので、磯などに行って採取したものからまた標本を作っています」

これまでの研究活動や知識を生かし、若いながらも即戦力として活躍が期待されている。

はじめて訪れた南三陸の光景に驚きを隠せなかった

福岡さんは、学校の教授からネイチャーセンター準備室のスタッフ募集の話を聞いたという。「じつは2018年1月に面接で南三陸を訪れたのが初めての南三陸でした」。初めて南三陸に訪れたときの感想を尋ねると「あまりの更地、盛り土の状態のままであることが多くて、正直びっくりした」と振り返る。

「東日本大震災が発生したのは、高校の卒業式の日でした。家に帰って見た津波の映像に衝撃を受けたことは今でも覚えています。ですが、月日がたつにつれて、日常に戻っていて、今では東京にいたら東北のことはまったく話題にのぼらないんですよ。忘れていたようななか、初めて訪れたということもあって、衝撃も大きかったですね。実際に行ってみないとわからないことが多いなって改めて実感しました」

湾のおもしろさに魅了されていく

着任してから2ヶ月。既に志津川湾の魅力の一端に触れ、研究活動のなかで全国各地に赴いていた福岡さんにとってもおもしろさを感じているという。

「寒流と暖流が交わる志津川湾は生き物の種類も量も多いし、さらに珍しい生き物も多くいる。そして震災前からこの湾の魅力に気付いて、研究をされてきていたというところがすごいと感じています」と話す。

こうした特異な環境があったとしてもそれに気付けず見過ごされているところも多いという。しかし南三陸は違った。だからこそ「ネイチャーセンター」の意義は大きい、と感じている。「ネイチャーセンターという拠点がまたできたときに、さまざまなことがスムーズにいくように整備をしていくことが与えられた役割だと思う」という福岡さん。

震災によってその研究の系譜が一度途切れてしまった南三陸町。その整備を行う福岡さんの仕事はきっと大きな意義をもつことになるだろう。世界に誇る志津川湾に向けて。一歩ずつ、確かに、歩みをすすめている。

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