願いと祈り 〜南三陸で紡がれる郷土芸能〜

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日本では古来より都の華やかな舞台芸能に対し、各々の郷里に独自の文化「郷土芸能」が伝えられてきました。南三陸の郷土芸能と地域社会の関係性とは。郷土芸能に関わる人々の声を交えながらお届けする新連載「願いと祈り~南三陸で紡がれる郷土芸能~」が始まります。

未来への遺産「郷土芸能」

『郷里に暮らす』… 今日という日々に歓び、自然の恵みに感謝し、平穏な明日を願う …

それぞれの地域社会に伝わる人々の営みが伝承され、その土地の祭礼や行事などで行われる芸能が、『郷土芸能』と呼ばれています。それは先祖代々受け継がれた未来への遺産であり、現代に生きる私たちには、明日へつなげる責任があります。

『郷土芸能』は民俗芸能とも呼ばれ、民間の行事・信仰に根ざして伝承されてきたものであり、祭礼・法会などに伴うものが多数残されています。農村、漁村、都市の祭りや寺社の行事という形で、人々の生活、習俗、信仰と深く結びついており、その歴史は非常に古いものです。

鎮魂 (たましずめ) 、招魂 (たまふり) の祈祷としてはじまった神楽(かぐら)、豊年を願う予祝行事としての田遊び、田植神事などの田楽 (でんがく) 、法会のあとに国土泰平を祈って行われた延年 (えんねん) 、疫病,怨霊の退散を祈る風流(ふりゅう) 、盆行事として行われる盆踊りなどのほかに、万歳、春駒(はるこま) などの祝福芸も存在しています。

近代以降、社会構造や生業形態の変革とそれに伴う過疎などの影響で後継者難に悩む地域も多い現状ですが、近年は無形文化財としての価値が再認識されつつあります。

入谷打囃子(写真提供:一般社団法人南三陸研修センター)

南三陸町における郷土芸能の現状

私たちが暮らす南三陸町には現在、6つの有形文化財(紺紙金泥大般若経、松笠屋敷 他)、6つの有形民俗文化財(歌津払川水車小屋、合木船 他)、そして11の無形民俗文化財(入谷打囃子、払川民俗年中行事、波伝谷春祈祷、伊里前獅子舞、石浜神楽、泊浜ふるだ舞、韮の浜獅子舞、寄木ささよ、泊浜獅子舞、本吉法印神楽、行山流水戸辺鹿子躍)が存在します。

南三陸町にはこれらの指定文化財以外にも多くの郷土芸能が存在し、古くは平安時代より続く長い歴史を持つものもあれば、トコヤッサイのように20年程の短い歴史のものなど、様々な郷土芸能が存在しています。

志津川の風物詩「トコヤッサイ」に魅せられて/佐藤美南さん
「トコヤッサイコンテスト2015」のようす (写真提供:トコヤッサイコンテスト実行委員会)

これらの郷土芸能は主に、行政区又は契約構を母体とし活動を行なってきましたが、現在は18の保存会による運営が中心となっています(平成25年南三陸町生涯学習課調べ)。残念なことに保存会の半分以上は現在、震災の影響も含めた様々な事情により、やむなく活動を休止しています。

「郷土芸能」とは、地域社会で人々の暮らしの中から生まれ受け継がれてきたものであり、世の中の移り変わりや暮らしの変化によって、その在り方も変化が生じ、場合によっては消滅してしまうこともあります。

「黒船祭」のようす(昭和46年前後)(写真引用:南三陸町 VIRTUAL MUSEUM)

願いと祈り

東日本大震災以降一部の郷土芸能は全国からの支援により、また関係者の努力により復活を遂げましたが、南三陸町に限らず郷土芸能や祭事の運営状況は未だ厳しい状況にあります。

現代に生きる私たちには、現代の価値観があり、時代を逆行することはできません。それでも先人の意思を感じ、すべてではなくても、一部をならうことはできます。

先日南三陸町にて上映された、我妻監督の新作「願いとゆらぎ」にならい「願いと祈り」というテーマがふさわしいと思い、今回の締めくくりとさせて頂きたいと思います。「願い」は対価を求めるものであり「祈り」は求めないもの、なのだそうです。

南三陸町において紡がれてきた郷土芸能は、コミュニティの中でどのような役割を果たしてきたのでしょうか。そこには「現代に生きる(南三陸町に生きる)」私たちへの、先人からのメッセージがあるのではないかと思います。

そんな想いを込めて、今回より南三陸町内で行われている「郷土芸能」の模様と、そこに寄り添う様々なまちの人々に焦点を当て、皆様にご紹介させて頂きたいと思います。

波伝谷の春祈祷(写真引用:南三陸町 VIRTUAL MUSEUM)

 

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